第21章 背徳のシナリオ ~前編~
さんから差し出されたスマートフォンを受け取って、スピーカー設定にした。
『悪い!バニーっ!!!撮影、なんか押しちゃってさ~!まだ終わんないんだわっ!飯食ったらさん、家まで送って行ってくれっかー?』
「もちろんですよ。それにしても……終わらなかったんですか?撮影」
ま、そうなるように仕組んであるんですけどね。
『そうなんだよーなんか、ダメ出しばっかくってよー!もうヘトヘトなんだけど俺』
「仕事なんですから、しっかりこなして下さい」
『わかってるって!とにかく、さんのことは頼んだぞっ!』
「私の事はいいからっ!お仕事頑張ってね!」
さんが大きな声で言っている。
さっきはひどく残念そうな顔をしていたのに。
「大丈夫ですよ。美味しい食事を堪能したら、ちゃんとご自宅まで送りますから」
僕はさんに向かってウインクをした。
『さんっ!ほんっとすんません!!!バニーも悪いな!頼んだぞっ!
あ、は、はいっ!!!すぐ行きまぁっす!』
虎徹さんの後ろからスタッフの急かす声が聞こえ、あっさりと虎徹さんの声が途切れた。
スタッフは僕からの仕事をこなしてくれているようだ。僕は心の中で息をつく。
「ふふ、忙しいのにわざわざ電話してくれたんだね」
「約束反故されたのに、怒らないんですか?」
「?仕方ないよね、仕事だし。さ、じゃあ虎徹君には申し訳ないけど、美味しいの堪能させてもらおう!」
今まで色々な女性が彼を狙ってきた。
その度に、僕が身体を張って止めてきたんだ……
「そうですね、美味しいワインも頼みましょう」
「やったー!いっぱい食べていい?」
「もちろん。あと、たくさん飲んで下さい」
「ふふふ。その言葉、後悔しないでね~」
こんな状況でも笑顔を崩さないさん。
そうか二人は似ているんだな……
いつも自分の事よりも
相手の事を考える
今度ばかりは……
少し分が悪いな……