第21章 背徳のシナリオ ~前編~
だけど、俺だけの仕事が長引いて……
先にバニーとさん、二人だけで店に行ったんだ。
まぁ、バニーと一緒なら心配ない。
後で俺もすぐに駆けつけるし。
「ねぇ……BBJ……このメニュー値段が書いてないんだけど……」
「ふふ。遠慮せずにお好きな物をオーダーして下さい」
「な、何、頼んでいいのか、わかんないよ……」
年齢を重ねている割りには、高級店には出入りしていないんだな……
だけどそんな考えは、顔には出さない。
ニッコリと笑って僕は言った。
「じゃあ僕が決めていいですか?さんは、お肉がお好きだって伺いましたので……」
「虎徹君、どんな話してんの!?恥ずかしいなぁ~」
……“君(くん)”、か。本当にそう呼んでいるんだな。
「あ、あぁ~ほとんどノロケ話ですよ」
「ないよね、ノロケるとこなんって!」
「そんなことないですよ。貴女は魅力的です」
「あーありがとう、なんかくすぐったいわ」
「そうだ、これを……良かったらどうぞ」
「何?」
「リップスティックです。今日、化粧品のCM撮影で、貴女に似合いそうな色だな、と思って」
「えーーーなんだか、本っ気で照れるんだけど……でも、ありがとう」
「開けてみて」
「うん」
ラッピングはシンプルに。変に誤解されないように。
簡単に包装された袋から、さんはそっと取り出すと。
「うわ~凄くキレイだね、ありがとう大事にするね」
「塗って見せて下さいよ」
「今から食事だし、後で虎徹君にも見て貰おう」
ニコッと笑うさん。
その目元には
「あー……それですね、虎徹さんを恋に落とした笑いジワ」
僕はワザと声に出して言った。