第21章 背徳のシナリオ ~前編~
結局、その日は一度だけ愛しあった。
声を我慢するさんは、やっぱり可愛いくて……
おまけに、気をやってしまったのか、
さんは、そのまま眠ってしまった。
俺はその寝顔を見て、ここ数年……感じることのなかった幸せの中で眠りに着くことかできた……
朝は……美味しそうな音で目が覚めた。
トントントンと……何かを切っている音。
シュンシュンとお湯が沸く音。
ジュージューと何かを焼く音。
こんな音の中で起きるのも久しぶりだ。
俺はキッチンに足を向けると、コーヒーを淹れているさんと目が合った。
「お、おはよう……」「おはよ……」
照れてるさんを見ると、なんだか俺まで恥ずかしくなっちまった。
「コーヒーで、いい……?」
「あ、はいっ」
「そこ座ってて」
そう言って、小さなダイニングテーブルのイスに腰をかけた。
きっとここはいつも、息子さんが座ってるんだろうな~
なんて考えていたら、さんがスゲーいいニオイのコーヒーを運んで来てくれてさ
目の前に、ミルクと砂糖を置いてくれた。
俺はキチンと温めてあるミルクをコーヒーに入れると、カップに口をつけた。
その時さんが……
「昨日のこと……酔ってたから……だよね……」
って!!!
それを聞いて俺は
ぶっ!!!と熱いコーヒーを噴いてしまった!!!
「やだっ!大丈夫!?」
「何でそんなことばっかり言うんっすか!?」
「…………朝、寝てる鏑木さんの顔見たら……あーこんな格好いい人が私と……なんて、やっぱないなーと」
「あーーーっ!もう、そんな事ばっか言うのなしっ!俺はいつも元気で明るいさんが、好きなのっ!!!」
「お金目当てだったら、お金なんてないよ?」
「……俺が稼ぐから、いらない」
「賠償金……」
「その分も稼ぎますっ!!!」
「がんばれっ!!!」
さんは、小さく両手でガッツポーズを作って応援してくれた……