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【忍たま】短編集

第3章 ただそれだけを(立花仙蔵)


「ありがとうございました。またお願いしますね。」


椿はそれを受け取ると都築屋を後にした。


「……椿さん!」


背後から聞こえた声に足を止め、振り返るとそこに駆けてきたのは都築屋の若旦那。


「はい、何か?」

「呼び止めてすみません。あ、あの…その…」

「?」

「こ、これを、受け取って貰えませんか!?」


先程とはうって変わって、緊張した面持ちで椿に差し出したのはなんと、つげの櫛だった。


「え、あ、あの…」

「あなたのことを大切にします。どうか、私と…」


若旦那の言葉に椿は困惑していた。
だがこれはもう、仙蔵から貰っているもの。
答えは決まっている。


「ごめんなさい…私もう、櫛は他の方から頂いていて…」


それだけを言うと若旦那には意味が通じた。
そうですか…と項垂れる若旦那の姿に椿は申し訳なさを感じる。
寂しそうに笑いながら、またご贔屓にと言って去るその後ろ姿を見つめていた。







「上出来だな。」


不意に耳に届いた声。
懐かしい響きに椿は振り返る。
そこに現れたのは、椿がずっと待ち続けた彼の姿。


「……仙蔵?」

「他に誰がいる?」


フッと笑うその仕草。
余裕たっぷりの表情。
二年間待っていた。
ただひたすらに仙蔵の言葉を信じて待っていた。
夢のような光景に涙が溢れる。


「バカだな、泣くな。」

「だって!ずっと待ってたから…」


仙蔵が椿の頭を撫でる。


「待たせて悪かった。ここだと目立つ。学園へ帰るぞ。」

「うん。」


仙蔵は椿の荷物を持つと、空いている手で彼女の手を引く。
その行動に少し緊張したが、仙蔵の斜め後ろを歩きながら椿は嬉しそうに笑った。
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