第26章 Rush around
「…い、いいのかよ…」
タクシーが走り出しても
何も話さない潤に
顔を拭いながら呟く
「…何が?」
「さっきの…恋人…じゃねぇのかよ…」
鉢合わせた時、
パッと上げた顔で見えた先
タクシーから降りてきた潤の背後に
どこかで見かけた人がいて
潤のシャツの裾をキュッて握ってた…
「俺に構わず…」
チラリと横目で見た顔が
これ以上の言葉を紡がせてくれない
言葉にしなくてもわかるほど
苛立ちを露わにした表情に
車内が沈黙に包まれる
ラジオから漏れる音と
いつのまにか降り出した雨の音が聞こえるだけで
心地よい雨音に眼を閉じる
…なんで俺、こんなにもやもやしてんだ…?
潤がどんなやつと付き合おうが…
別に知ったことじゃないはずなのに…
もやのかかった感情は考えてもわからなくて
徐々に酔いと疲れに思考放棄
「…翔?」
微睡む中、聞こえた潤の声は
いつもと変わらない優しい音で
心地よい雨音と
心地よい振動に
微睡みはどんどん深まって
頭、撫でられてる…?
気持ちい…
頬からじんわり…伝わってくる温もりと
心地よい指の感覚を感じながら
やっと、理解した
俺…潤に避けられて寂しかったけど
ただ…避けられて寂しかったんじゃねーんだ…
俺…潤のこと…いつから……?
「翔…」
俺を呼ぶ心地よい声を子守唄に
夢の中へと誘われていった