第11章 スタートライン
❁❁❁ 陸side ❁❁❁
「万理さん!ただいま!!」
事務所へ入って最初に見つけた姿に元気よく声をかける。
万「お帰り陸くん。それからみんなも」
紡「戻りました···あの、これは···」
マネージャーが周りを見ながら言えば、ちょうどそこに歩いて来た社長が難しい顔をした。
小「見ての通り、ちょっと···ね」
見ての通りって、もしかして···
「泥棒···とか···」
一「確認するまでもなく、そうでしょうね。これがただの誰かのイタズラにしては、様子がおかしいですよね」
大「万理さん、もしかして夜中の内にやられたのか?」
大和さんが聞けば、万理さんも社長も、昨夜はちゃんと鍵を閉めたって言ってて。
万「とりあえず警察の調べは終わって許可も貰ってるから、みんな失くなってる物がないか調べてみて?」
紡「わ、分かりました!」
慌てながらマネージャーが自分の机に近付いて、引き出しを開けたり閉めたりしながら確認をするのをオレたちは見てた。
紡「ない···ない!どうして?!···社長、アイドリッシュセブンのデビュー曲が入ってるディスクがないんです!」
「「 えっ?! 」」
紡「何かのためにってコピーして保存してあるから困ることはないんですけど···だけど、本体の方が···」
それって···結構大変なことなんじゃ···?
万「曲だけを盗む···なんて、あるんでしょうか···」
小「分からない···けど、アイドリッシュセブンが歌う曲には、それだけ価値があるものなんだ」
社長の話を聞いてみんなを振り返る。
そこには、今まで見たことがないような怖い顔をしたナギがいて。
「ナギ···?」
どうしたの?···そう、声を掛けようとしたらドアの隙間からなにかが飛び出してきて···
「う、わぁっ?!」
『きなこちゃんダメだってば!』
···え?
きなこ?
“ きゅー! ”
びっくりしたオレの腕の中に、きなこがぴょこんと飛び込んで来る。
一「七瀬さん、すぐに離れてください!じゃないと発作が!」
一織のやつ、そこまで神経質にならなくてもいいのに。
『七瀬さん、ごめんなさい。私がちょっと油断したら、きなこちゃんが脱走しちゃって···』
「気にしなくて大丈夫だよ。きなこだってオレたちにお帰りって言いに来てくれたんだと思うから」