第11章 スタートライン
小「長さは少し揃えなければならないけど、でも大丈夫。前と同じくらい···いや、それ以上に美人さんにしてあげるって保証はするよ」
『なれるでしょうか···』
つい後ろ向きになる私に、社長は何度も大丈夫だよとポンポンっと肩を叩く。
小「僕が最初に約束したこと、忘れちゃったかな?」
『約束、ですか?』
小「そうだよ~?キミの中にある小さな輝きのカケラを、ちゃんと光輝かせるって。それくらいの甲斐性は僕にもあると思うんだけどな?ね、どう?」
私と目線を合わせるように少しだけ腰を屈める社長は、あの時と同じ目をしていて。
それが今は、何よりも安らげる気がして。
『ついて行きます、社長に』
そんな言葉が、自然と出ていた。
小「あ。今のちょっとだけ万理君みたいだったよ?もしかして万理くんの真似した?」
『ち、違いますよ!···もう、社長には敵いませんね···』
思わず笑い出してしまう私を見て安心したのか、社長が姿勢を戻してドアへ手をかける。
小「さて、この先にはもうひと仕事あるね。僕は万理くんから状況報告を受けてくるから、愛聖さんは僕の部屋にいるきなこをケージから出して遊んであげてて貰えると嬉しいんだけど?」
『きなこちゃん、ですか?』
小「そうだよ?きなこは愛聖さんによく懐いているし、きっと遊んでくれたら喜ぶと思うんだけどなぁ?」
きっと社長は、散乱した事務所を私が目の当たりにしないように気を使ってくれているのかも。
そう感じて、私は社長のお願いを快諾した。
小「今日はアイドリッシュセブンのみんなも沖縄から帰ってくる日だから、それまでに片付けを終わらせないと···」
う~ん、と軽く伸びをする社長に、何かあったら私もお手伝いしますからと言えば、働き者の有能事務員の万理くんがいるから、いざとなったらお願いするよと笑いながらドアを開けた。
小「はい、これは僕の部屋の鍵」
ポケットから出した鍵を私の手のひらに乗せて、社長は先に事務所の中へと入って行った。
私はその鍵をそっと握り締めて、社長が歩いて行く方向とは別の方向へと歩き出した。