第11章 スタートライン
電話を掛け直す前から頭が痛くなりそうだ···
と、思いながらも。
僕は愛聖さんを返すつもりは、全くないんだけどね。
だって、そもそも僕が受け入れる時に何度も確認したんだから。
後から返せって言われても返せないよ?って、ね。
もちろん、その時と今は全然状況が違うわけだけど。
本人が戻りたいと言うなら話は別だけど、そうじゃないなら···返さない。
いや、正確には返せない···の方が正解かな?
アイドリッシュセブンのみんなにも。
万理くんにも。
そして、紡くんや僕にも。
既に必要不可欠な···まるで家族のような存在なんだから。
そんな事を言ったら、お前は繕い物の家族だ!なんて、八乙女は激怒するかも知れないけど。
想像の中で不機嫌な顔をした八乙女にペロッと可愛げなく舌を見せながら、話を続けている愛聖さんの隣で提出書類に目を通す人間に姿勢を正す。
「全治···2週間。ただし、外傷に関してのみ···どういう事ですかね、ここは」
書類から顔を上げて、担当者が僕たちを交互に見る。
『それは···』
「そこに記載されている事は、全て診て下さった医師の診断です···目に見える傷は投薬や時間が治してくれる。ですが、心の傷には特効薬はありません。そういった辺りは察して頂けると」
瞬きひとつせず目を見て言えば、担当者も小さく何度か頷いて、書類に書き込みをしていた。
「なるべく目立たないように捜査をしていこうと思いますがすぐに解決出来るとはお約束出来ません。こういった事案の場合、容疑者を探し出すのには時間が必要です。顔もよく覚えていない相手を探して罰するのは、なかなか難しいですから」
「それでも宜しくお願いします」
深々と頭を下げて、少しでも早く解決して貰えるようにと付け加えた。
何も心配せず、愛聖さんが仕事を出来る環境を整えてあげることも、僕の仕事だから。
再度挨拶をして愛聖さんを促しながら席を立ち、僕たちはその場を後にした。