第11章 スタートライン
「う···っ、うわぁっ!!!ユ、ユユユ、ユキ?!いつからそこにいたの?!」
だってユキはお風呂入るって言ってて!
チラッと時計を見れば、ユキがシャワールームに行った時間からは大分、時間は過ぎてて。
ズリズリとユキから距離を離しながら、うわずり気味の声で言えばユキは真顔のままでオレを見る。
千「いつからって、そうね···確か、なんでだよ···ってモモが言ってた辺りから?」
マジかーい!!
それって結構···最初の方じゃん?!
え?
えっ?!
じゃあ···ほとんど全部、見られてた?!
千「で、気が済んだ?」
「な、なにが?!」
千「なにが?って、それ」
「それって、これ?」
ユキが軽く指さしたクッションを掲げて見せれば、ユキは他にないでしょ?と笑った。
千「それ、愛聖が凄く気に入ってて。ここへ来る度に抱きしめてソファーに座ってるやつだけど···もしかしてモモも欲しかったの?随分と長いことギューッてしたり、顔をくっ付けてたりしてたけど」
全部見られてたぁー?!
「ち、違う!これには深いワケが!」
千「深いって、どんな?」
聞かないでー!
千「僕には言えないような···怪しいこと?」
「いや、だから、その···」
ダーリン、目が笑ってないよ!!
千「大丈夫、愛聖にはモモが変態さんごっこしてたとか言わないから」
「し、してないから!変態までまだ行ってないから!ギリセーフ!」
千「フフッ···そういう事にしておいてあげる」
慌てるオレからユキがクッションを受け取って、ソファーに戻す。
ちょっと、待って?
いまユキから···
「ねぇユキ?ユキっていま、シャワーして来たんだよね?」
オレが言うと、ユキはピクリと小さく反応する。
「いま、ユキから···マリーと同じ、シャンプーの匂いがした···けど」
いつものお風呂上がりのユキとは違う香りに戸惑いながらも、そっとユキの顔を覗いてみる。
千「からかってゴメン、モモ···実は僕も、モモと同じ事を考えてたかも知れない。だから今日は、愛聖を近くに感じていたくて、ちょっと、ね···」
そう言ったユキの顔は、なんだか少し···寂しそうで。
モヤモヤしてたのはオレだけじゃなかったんだって···そう思えた。