第11章 スタートライン
『いっつも私のことおまえって言うけど、私ちゃんと愛聖って名前あるんだけど』
千「だから?」
『だから、おまえって言わないで』
千「僕がどう呼ぼうと、おまえには関係ない」
『またおまえって言った!』
んんん?
なんか会話の流れが怪しくなって来たような···?
せっかく楽しそうに宿題してたのに水を差すな!と間に入ろうと1歩を踏み出して、俺は千の言葉に足を止めた。
千「じゃあ、おまえって言うのやめる。その代わり、今から愛聖は···マリーって呼ぶ事にする」
『マリーって、なんで?』
千「愛聖だから、マリー。ただそれだけの事。それがイヤなら、おまえって呼ぶけど?」
ただそれだけの事って、あの千が···若干だけど目が泳いでるぞ。
千は本人がいない時には、ちゃんと愛聖って言ってたのにな。
今日は愛聖はまだ来ないのか?とか。
俺としては、そんな千が面白くて···でもそれを言うと機嫌損ねるから黙ってたけど。
『···マリーでいいよ。でも、私は?私は千お兄ちゃんの事なんて呼べばいい?』
千「は?そのままでいいだろ別に」
『そのままって、千?』
千「なんでそうなる」
『だってそのままって言ったじゃん!···あ!いいこと考えた!私がマリーって呼ばれるなら、千はゆっきーって呼ぶね!』
···ゆ、ゆっきー···とか···ウケる···
思わず吹き出してしまいそうなのを堪えながら、それでもまだ足を止めたまま様子を伺う。
千「···その呼び方は却下」
『じゃあ千は?万理お兄ちゃんも呼んでるし』
千「それもダメ。もう少し大人になったら考えてやってもいい」
どんな理由だよ、それ。
『大人に···なったら?じゃあ、ゆっきーも私が大人になったら、ちゃんと愛聖って呼んでね?···約束ね?』
千「ちょっと···約束とか面倒なんだけど。それから、その呼び方はやめろ」
いいからいいから、と愛聖に無理やり指切りをさせられる千に、ご機嫌な愛聖。
そんな2人を微笑ましく見ながら、俺は時計を見て···そろそろお茶でも用意するかな?なんて、笑った。