第11章 スタートライン
結果的には、その日から愛聖が俺を避けることもなくなったし、良かったんだと思う。
それから少し経って千とも出会い、その千が暇さえあれば俺の家で過ごす日が続いた時。
千「昨日のヤツは僕がイヤだ。音楽だってそれなりなのに、必要以上に僕にまとわりついてウザい···だから女のメンバーはムリ」
「そんなことばっかり言ってると、誰もメンバーに参加してくれなくなる。それじゃバンドとして成り立たなくなるから千だって困るだろ?だから折れるべきは今回は千じゃないのか?」
去るもの追わず主義の千に、もうちょっとメンバーと仲良く出来ないかを話してたのに···
千「話にならない···帰る」
機嫌を損ねた千が靴を履き、ドアを開ける。
千「おまえ···誰?ここになんか用?」
不機嫌な千が開いたドアの向こうに素っ気なく言い放つのを聞いて俺もドアの外に目をやる。
『あ···えっ、と···』
「愛聖ちゃん!···千、その子は隣の部屋の子だよ」
千「隣?じゃあ、用がないなら自分ち帰りなよ」
「千!そういう意地悪なこと言うなよ!···ほらそこ退いて。愛聖ちゃん、宿題で分からないとこでもあった?教えてあげるから見せて?」
教科書とノートを抱えて動けずにいる愛聖に言えば、千はそれがまた気に入らないのか···サッとノートを取り上げて目を落とした。
千「ここが分からないとか、おまえ···バカなの?」
『ば···バカじゃないもん!』
···最悪だ。
だけどそれが、千と愛聖が初めて出会った瞬間でもあったんだ。
人を寄せ付けないオーラ全開の千に、元々が人懐こい愛聖。
そんなチグハグに見える2人が、俺の家で顔を合わせる度にほんの少しずつ距離を縮めて行くのを、俺はずっと見て来た。
その距離がグッと縮まったのは、ある日、愛聖が音楽の宿題が···といつもの様に教科書と、それから音楽用の五線譜のノートを持って来た時だった。
千「自分で短い曲を作る宿題?ふ~ん···最近の宿題って、そんなのがあるのか。で、おまえは曲は作れたの?···見せて?」
おっ?あの千が、自分から距離を詰めた?
『作れたって言うか···』
千「いいから見せろ···あぁ、なるほど。おまえの頭じゃ、こんなもんなんじゃない?」