第11章 スタートライン
❁❁❁ 万理side ❁❁❁
社長から連絡を受けた時、その話が嘘であって欲しいと思えるような内容が耳を通過した。
まさか···そんな事があったなんて···
言葉に詰まり黙り込む俺に、社長が取り敢えず事務所に連れて帰るから、他の社員が残っていたら帰していいと、まるで人払いのような指示まで残した。
普段から社長の意向で定時退社を勧めているおかげもあって、その時間に残っていたのは俺だけだったから人払いの必要もなかったのは幸いだった。
社長と愛聖の帰りを待つ間、どことなくそわそわする自分に落ち着けよと言い聞かせながら、それでも何かしていないと時計ばかり見てしまうのを押さえるように、給湯室に向かってお茶の用意をしていた。
暫くすると事務所のドアが開く音に気が付いて、足早に出迎えに向かう。
「お疲れ様で···」
社長の隣に並ぶ愛聖を見て、言葉を詰まらせる。
仕事に行く時に見送った時とは違う、愛聖の···姿。
サラリとした髪は、妙な場所で短くなっていたり。
冷やし続けているのか、顔も保冷剤を包んだタオルを当てている。
小「ただいま万理くん。少し道が混んでいてね···随分と待たせてしまって」
「いえ···それは大丈夫です、けど···」
穏やかな微笑みを浮かべる向こう側に、疲れ切った表情を垣間見せる社長を見て、どれだけの事が起きたのかを感じ取る。
「お茶···用意してますから。社長室でいいですか?」
少しでも早くひと息ついて貰おうとふたりを促し、手早くお茶の用意をして社長室へ運んだ。
小「さっきも電話で言ったように···」
暫くの沈黙の後、社長が話し出した内容には驚きを隠せない事ばかりで。
俺はなにも言えずに、ただ···俯く愛聖を見ていた。
収録前に楽屋を荒らされたり、その後も···
自分がその場にいてやれたら···と、いまの自分の現状を後悔しつつはあるけど。
でも···そんな時に百くんや千がいたって事は、愛聖にとっても心強い存在だったんじゃないかとも思える自分がいて。
そんな事を考えながらも、社長が話す明日以降の予定を頭に刻み込んだ。
寮に1人で滞在させるのは心配だからと言う理由で俺も一緒にと社長の家に泊まることになり、シャワー浴などを済ませて用意された部屋に戻れば···