第2章 the last rain(鉢屋三郎)
「三郎君」
食堂のおばちゃんが俺を呼んだ。
目が合うとおばちゃんは優しく微笑む。
「椿ちゃんをよろしくね。」
「おばちゃん…」
「…はい!」
学園長が、三郎グッドじゃと言って指で丸を作った。
そして俺と椿は学園長室を追い出される。
仕事の報告を雷蔵から受けるから、ということだった。
……気を効かせてくれたんだろうな。
「雷蔵」
「はい。」
「作戦、成功じゃな。」
「ええ、ダメかと思いましたが結果良かったです。じゃないと私は殴られ損ですよ。」
「本当に良かったわ~今日はお赤飯にしようかしら。」
俺たちが去った学園長室で、こんな会話がされたとかされていないとか。
学園長室を追い出された俺たちは、手を繋いだまま歩いていた。
雨はいつの間にか止んでいた。
椿は何も言わず大人しく俺についてくる。
俺はまだ椿に言わなきゃいけないことがある。
「椿」
彼女が緊張している様子が繋いだ手から感じる。
「さっき言ってたことは本当だ。俺はお前を貰いたい。順番が逆になってすまなかった。返事を聞かせてくれないか。」
意を決して椿に伝えると、彼女は恥ずかしそうに笑う。
「はい、お願いします。」
花が咲いたようなその顔。
繋いだその手はもう二度と離さない。
愛している。
心から椿を大切に想う。
命を懸けて守ると誓う。
だから、椿は俺の隣でずっと笑っていて欲しい。
「見て!雲が晴れてくる。」
椿が指差す方に目をやる。
厚い雲の隙間を切り開くかのように、光が差し込む。
光の筋は真っ直ぐに地に降り注ぎ、生命を育む糧となる。
まるでそれは、俺の心の闇を払う椿の言葉。
俺は彼女によって命を与えられ、彼女によって生きる喜びを知る。
椿にとって俺も、そうでありたいと願う。
「三郎、大好き。」
━the last rain 完━