第12章 炎の意志
「では、聖水の製作を開始してくれ
出来れば、すぐに火粉の瓶の下に球体にして留めてほしい
火粉が混じれば粘膜のような液状に変化するだろう」
「わかったわ」
アランは両手の平に拳程度の水を浮かし、ユリエフが作り出す光と混ぜていく
ユリエフの光は眩い輝きを放ち、水に染み込むたびに線香花火のような小さな火花が散る
「アランさん、大丈夫ですか?」
「えぇ・・ユリエフの光の魔力を水の中にとどめるのって、口では簡単に言えるけど実際は難しいのよね・・
そのなんていうか・・魔力の仕組みがあたし達と違いすぎて、複雑だわ」
爆発しそうな聖水の球を両手で必死に抑えるアラン
「よし、そのままこちらへ!
僕の火粉ができるだけ空気に触れない位置まで聖水を近づけてくれ」
「えぇ・・」
ゆっくりと近づける水球に、ローランは息を殺しながら小瓶の中の火粉を注いでいく
火粉が混じっていく中、周囲に飛び散る火花は消滅した
水と光が混じり合う聖水ではなく、炎が加わることで光の効果が薄れ、水と炎が優先的になった
相反する属性を抑え込みながら、アランはローランの指示の元、ヒルトへ近づく
「ヒルト君、失礼するよ」
ローランはヒルトの右肩の傷口が見えるように服を脱がせ、アランが持つ火粉と聖水が混じった解毒剤をゆっくり傷へあてていく
「っ・・・!」
わずかみしみる痛みに耐えるヒルト
解毒剤は傷口からしみ込んでいき、ヒルトの体に入っていく
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」
息が荒くなっていくヒルト
その様子に、クライヴは心配そうに見つめていたイリヤへ近づき、耳元で囁くように話しかけた
「イリヤ、お前の力では人を拘束することもできるな?」
「え、できるけど、どうしてそんなこと聞くの?」
「今に見てればわかる
俺が指示するとき、指示通りに動いてもらいたい」
「それはいいけど・・・何考えてるのか教えてよ」
「それは―――ー」
クライヴがイリヤに説明をしようとした時、ヒルトの体の中には解毒剤が完全に入り込み、薬の効果がすぐに出始めていた
全身に浮いていた呪印や痣は引いてゆく、ヒルトの体温も低下していく
だが、ヒルトの虚ろな目は次第に充血してゆき、眉間にしわが寄り、心臓部から血管がはち切れるほど浮き、皮膚の正面は植物の根が巻き付いたように血管が膨張していく
「っあああぁぁぁぁぁぁ!!」
「ヒルト君?!」
