第12章 炎の意志
誰が見ても惹かれるその姿に、大男は狂気の目で見つめた
「その顔からするに、何故生きているのかと言いたいのでしょう
残念ですが、天族が創り出した封印術で、このトレイタスを封印するなどできないのですよ」
清々しく話すトレイタスは大男の首に刺さったナイフを抜き取り、再度脳天に突き刺して息の根を止めた
「はっはっは、相変わらず容赦ないね、龍族の王子様は」
トレイタスと対正面に立ち、酒場のカウンターに座り込み両足が義足の男は両手の平を叩き、豪快に笑う
「ヴァン・・・
あなたがこの地に来るなんて珍しいですね
任務はもう終わったのですか?」
「彼の方から授かった任務はちゃーんと終わったぜ、トレイタス
俺様は久しぶりに腐った自分の一族を見ようと思ってな。
けどまぁ、相変わらずこの街は火族のクソが集まる掃き溜め場みてぇな所だ
自分がこいつらと同じ血が流れてると思うと、悲しくなるぜ」
指先を目頭に当てながら涙を抑えるような仕草で話すヴァン
トレイタスは呆れた表情で溜息をつく
肩から力が抜けるほどのリアクションは、ヴァンにとって笑いがこみ上げてくるほどのものだ
「ククク、笑かさんじゃねぇよトレイタス!
俺の嘘泣きがそんなに呆れるのかよ」
「はぁ、まったく・・
自ら嘘泣きと言って笑っているあなたがよくわかりませんね」
ヴァンに目を合わすことなく、トレイタスは足元に倒れている死体へ向ける
先に殺した火族の大男のズボンから小さなバッチが転がり落ちているのに気づき、それを拾いあげて微かに口元がニヤリと笑う
「私はまだ任務が残っているので、ここで失礼しますよ
ヴァンはまだここに残るのですか?」
「あぁ、ちょっとは面白いもん見れるかもしれねぇし
場合によっては少しあのガキに手を貸してやろうと思ってる」
「ーーーなるほど、ではご自由に。
私は先に闇の神とアルトリアさんの元へ戻ります
あと、血が上ってインドリームを殺してはいけませんよ?
とくに、あの三人は」
「あーわかってるわかってる。
そんな真面目に忠告しなくてもいいぜ
説教交じりのお前の言い方は苦手だしな」
右手を振りながらヴァンはトレイタスをあしらい、背中を向ける
完全に話を聞くつもりはないという意思表示
トレイタスは表情を変えることなく、黙って闇のゲートを作り出し、その場から姿を消した
「さてと、いっちょやってやるか」
