第12章 炎の意志
赤く燃え盛る炎をアランへ見せるため、ゴーレムは再び井戸底へ進む
ゴーレムを通してアランの意識の中で映し出された炎は異常な勢いで燃え盛り、それは自然の理に反している現象だった
「燃料もなく燃えてる炎・・・
それに周囲に広がる事なくここだけ燃えてるのもおかしい。
何かを隠しているのかしら?」
「―――アランちゃん、この炎って魔族の仕業かな?
ただの能力だったらこんなに燃える炎は使えないよね」
「そうね、どういうつもりで炎を作り出したのかわからないけど、この炎を消して水を供給する
それが今のあたし達がしなくちゃいけない最優先事項よ。
イリヤ、下がってて。」
「・・うん」
イリヤはゴーレムと炎の壁から距離をとり、ゴーレムを操っていた魔力をアランへ譲り、操作権利は全てアランのものとなる
「アランちゃん、やっちゃって!」
「言われなくても、容赦なくするつもりよ」
アランは両手に水流の渦を作り出し、両目を閉じて意識を集中する
「生命と浄化を象徴する大いなる水よ――――
我が名に応え、目の前の忌まわしき破壊の炎を消し去れ。
アクア・リヴァイレンジ〈聖水による救済〉」
渦巻く水は天へ上り詰める龍のように蛇行しながら立ち上がり、勢いよく井戸底で燃えさかる炎の壁に激突していく
「っ?!」
水しぶきを岩石の壁で防ぎ、炎がみるみる消滅していく現象を見守るイリヤ
不自然に燃えていた炎は鎮火してゆき、アランの水は勢いをやめることなく完全な消火となる
「やった!」
「・・いえ、まだよ
大いなる水よ、我々に恵みを与えたまえ!」
アランは右手を目線と同じ高さに水平に差し出し、広げた手のひらは何かをつかむように力を込め、拳を引く
その動きと同時に井戸底の奥からアランの水と混じり、咳止められていた本来の井戸水が沸き上がってくる
「あ、やばっ!」
井戸底にいたイリヤはゴーレムを飛び越え、井戸からアランが待っている地上へ駆け上っていく
「よっ」
軽やかに体を回転しながら空中を舞い、アランの元に戻るイリヤ
同時に井戸にはあふれるように水が満たされ、見守っていた火族達が歓声をあげる
枯れた心と生命に、潤いの希望が戻った瞬間だった
「よかったね、アランちゃん」
「ええ、この状況が落ち着けば手当たり次第、この街に滞在している医者の事を聞きましょう」
「そうだね」
