第12章 炎の意志
「ちっ」
「逃しはしない!」
ローランの手を振り払い、フードをかぶった青年は距離を取ろうとするが、ローランは空かさず炎の剣を作り出し、薙ぎ払うように大振りで切ろうとした
炎の熱でフードの端は焼け焦げ、剣圧でフードが吹き飛ばされた影響で、青年の素顔がはっきりと捉えられた
赤髪にオレンジ色の瞳をし、群青色のバンダナを巻いた青年
だがその目は死んだ魚のように暗く、誰も映してはいない
ローランは初めて見た青年だったが、勝手に口が動く
「ジェイク?」
己の名を呼ばれた事でピクッと動きを止めたジェイク
ローランも見覚えがない相手に対して、初めて口にする名に動揺する
「・・・・そうか、お前が憑代になっているんだな
だったら、今ここで殺せばすべて片付く!」
「え?」
ジェイクが小声で呟いた言葉には、明らかな殺意が感じられた
ローランの動体視力はジェイクの動きを追えず、気がついた時には目前にジェイクの拳が迫っていた
放たれた拳の表面には灼熱の幕が覆われ、相手を一撃で殺せる程の力が込められている
だが、鋼が曲がりかける音と共にジェイクの拳は止められた
「はぁ・・はぁ・・はぁ」
息を切らしながらアンリは長身の大剣を盾にし、ローランの前に立って攻撃を防ぐ
「アンリ!?」
「下がってください、ローランさん!
こいつ、めちゃくちゃ危険です!」
「部外者は消えろ
炎よ、我が命に応えよ」
「この演唱、まさかっ!
遺跡ごとあたい達を沈める気?!」
ジェイクの演唱が続く度に周囲に炎の玉が浮き上がり、灼熱の風が遺跡内で起こる
「っ!
ローランさん、こっちへ!」
アンリは背中に装着させた磁器のプレートに大剣を装着させ、片手で軽々とローランを担ぎ上げる
「アンリ?!
一体何をっ・・・」
大の大人をいとも簡単に持ち上げる少女の怪力は腕だけに留まらず、勢いよく地面を蹴り飛ばし一気に遺跡から脱出を試る
「全てを焼き払え!」
ジェイクが演唱を終え、指を鳴らした瞬間、遺跡の壁の中から爆炎が吹き出し、全ての遺跡が崩れていく
アンリの走力は凄まじいが、次々と落ちてくる瓦礫や足場の不安定さから出口まで間に合わなかった
「あいつらはここで死ぬ
遺跡も壊したし、もうここには要はない
行こうぜ、アドラ」
ジェイクは傍に立っていた青年の名を呼び、崩れゆく遺跡から姿を消し、アドラも満足な笑みを浮かべて消えた
