第12章 炎の意志
砂嵐が酷く吹き荒れる中、土で作られた崩れかけの遺跡の中で
1人の白髪の男は口元を隠していた布を取り、歓喜の声を上げた
「やったぞ!
ついに見つけた!」
赤い瞳に光と涙を浮かべながら、腰につけていた小型の革製のバックから小瓶を取り出し、足元に広がる輝く火の粉を入れていく
遺跡の中は冷たい隙間風が流れ、暗闇が広がる
男は胸と腰に装着させたランタンを頼りに周囲を見渡す
「炎があるわけでもないのに、光を宿しながら在り続ける火の粉・・これこそ火族が開発した魔進薬という毒薬に対となる解毒薬の最後のピースだ!」
男は無我夢中で火の粉を瓶に詰め、他にもないか確認するために立ち上がり振り向いた瞬間、そこには気配もなく佇んでいる少女がいた
「うわぁ?!」
「そんな幽霊を見たような反応しないでくださいよ、ローラン先生
あたいはずっとここにいたんですから」
「それは気づかなかったよ、アンナ
君はいつも気配を隠しているせいで、近くにいてくれてるとは思っていても距離感が掴めないね」
「ご心配なく。
あたいはずっと先生を守るためにいますから」
白髪の男をローランと呼ぶその少女の髪は
暗闇の中でも僅かなランタンの光だけで分かる程、真紅色であり、
胸まで伸びている髪の上部は三つ編みで束ねられ、前髪は横にまっすぐ切り、眉が綺麗に隠れていた
見た目は十代半ばの小柄な体をしているが、タイトなグレーのハイネックスーツにオレンジ色のコートを腰に巻きつけているせいで
筋肉やボディラインがはっきりと見えている
その肉体は見た目とは真逆の屈強な戦士そのものだった
アンナと呼ばれる少女はローランのボディーガードとして
常に傍に構え、これまで多くの盗賊や魔族から彼を守ってきた
そのおかげでローランからはかなり信頼されており、出会って数年しか経っていないが、彼はアンリに何でも話せた
「見ておくれよアンリ!
この火の粉があれば、火族が作ったあの毒薬をついに解けれる!
これは世紀の新発見だ・・」
「それはさっき聞いてましたよ
ローランさんの独り言でね
まぁ、よかったじゃないですか
火族のあたいでさえ知らない情報ですからね」
無表情で話すアンリは気分が乗らないのか、それとも周囲を観察しているのか
ローランと目を合わすことなく遺跡の壁や火の粉を見ながら応える
