第11章 破滅の鐘
「俺はいろんな意味で普通じゃないからな
常識外の力だけを求めていた俺の中にあるのは闇だ
だが、その力が過去に他者を傷つけながら使用されていたとしても
今の使い方は同じではない。
闇の力は傷つけるためだけにあるものではない、とーーー
そう、教えてくれた友のおかげで俺は変わり、この魂留め〈ソウル・コージング〉の新たな使い方も知れた」
確かな決意が満ちた瞳にライアンは引き寄せられる
目の前にいる存在こそ、紛れもなく闇の力をマスターし
世界を変える存在にふさわしいと――――
ほんの一瞬、世界が止まったように思えた
僅かな静寂に包まれた時、唸り声をあげていた巨人の声は止み
巨体が打ち砕かれ星々はゴミ屑のように粉塵と化す
「集まりなさい」
巨人を縛っていた魔術文字は巨人から放たれる魔力を吸い上げ膨張し、一本の木のように変形する
白と赤が混じり合う光で作られた木からは雫が垂れ、アークは片手でそれを取り口元がニヤつく
雫はアークの肉体の中へ吸収されて行き
血管を巡るように体中を這う
「嗚呼、なるほど」
アークは身体中に巡る巨人の魔力から多くの情報を収集し、その魔力を取り入れることに罠が仕掛けられていない事を確認した上で再度雫として戻す
そして両手の上に浮かせながらゆっくりとクライヴへ近づき、膝をついて譲渡する
王に捧げ物をする家臣のように深々と頭を下げ、巨人の魔力と情報が集約された雫はクライヴの中へ入っていく
闇に取り込まれるように雫はクライヴの胸に入り、そして全ての情報が駆け巡る
「・・・・・」
目を瞑りながら必要な情報と不要な情報を掻き分けていくクライヴの後方で
ライアンは結界が壊れた後どのようにするか考えていた
己の未練を達成すればいずれ魔族となる
だが、夫に会わずと浄化されてしまえば心残りがある
どちらを優先すべきか悩んでいる中、アークの言葉で思考が停止した
「私の主人が何故、魂留め〈ソウル・コージング〉を出したのかまだ理由がわからないのですか?」
「え」
「まったく、これだから無能な魔術師は困りますね
第五階級の魔術師であれば、もう少し冷静に考えれば分かる事だと思いますよ」
蔑んだ目でライアンを見るアーク
彼が何を言おうとライアンは何も言い返せなかった
アークは尊敬する魔術師界の最上位者であり、その叡智や実力に追いつけるとは思えない
