第11章 破滅の鐘
ユリエフから逃げるように部屋を出たジェイクは宿の一階へ降りていき
受付のカウンター近くにある一枚の扉の前に立つ
「・・・」
扉の上には小さく文字が刻まれており、それはこの扉の奥が何なのか示す単語だった
「用をたすならさっさと入ってくれないかな
この宿には一つしかなくてね
他のお客さんも使うんだ」
外で騒ぎがあるにもかかわらず、冷静に家計簿を記載している宿屋の主人
気味が悪くなる程の冷静さに、ジェイクは見覚えがあった
「・・・まさか、あんたもそっち側なのか」
「・・・」
ジェイクの問いに主人は反応せず、目を合わせようともしなかった
冷たく、何の感情も持ち合わせていない瞳
かつての己と同じものを感じるものだった
「ちっ」
苛立ちから湧き上がる舌打ちを大きくさせながら扉を開け、中へ入る
薄暗い空間には銅器で作られた便器が二つと洗面台が一つ
窓は一つだけ設けられている
そこから陽の光が灯りの代わりになっている
「・・・出てこいよ、破滅の鐘
ここがお前達の待ち合わせ場所なんだろ」
ジェイクの冷静な声に、一人の男がどこからか姿を現わす
「呼んだか?
炎のインドリーム」
迷彩柄の頭巾を被った大男は不可視の能力を解き、ジェイクの目前でニヤつきながら応える
「結界術師のガウンか」
「いかにも。
だが失礼、我々は君が使える駒だとしか聞いていなくてね
具体的な正体は知らされてない。
無礼な態度をとっているなら、ここで謝罪しておこう」
「そんな肩書きはいらねぇよ
俺が知りたいのは、お前らが現れたってことは上から言伝があるはずだ」
「その通り。
これを渡せた言われていた」
ガウンは手の平からキューブ型の結界を出現させ
その中にあるスクロールをジェイクに渡す
「ーーーーこの内容は・・うそ、だろ?」
スクロールに記載されている文面を目で追い、僅かに両手に力が入り、スクロールにシワがはいる
それに対してガウンはいたって冷静であった
スクロールの内容は知らずとも予想はできる内容だったのだ
「何を寝ぼけたことを言っている
今まで上からの命令で嘘偽りがあったか?」
「・・・けどこれは・・流石に・・」
ジェイクはガウンと目を合わせる事なく、小さく呟く
「もし、俺がこれに従わなかった時は・・・?」