第9章 ディオン連邦共和王国
「お兄ちゃん・・
来ちゃだめ・・っ!」
「――――待ってろよ、今すぐそこに行く!」
ジュリは燃え盛る森の中で、必死にアレックスを止めた
だがアレックスには声が届いておらず、火の粉を振り払いながら近づいていく
そんなアレックスにはまだ見えていなかった
ジュリの背後にすぐそこまで迫っていた異形の魔族達の姿を――――。
「ジュリ――――」
アレックスが名を再び呼ぼうとしたとき、先に目のまで赤く飛び散る肉が飛んできたのがわかった
「・・・え・・?」
まるで重力がなくなったように、ゆっくりと空中を飛ぶ肉片と血をアレックスの目はしっかりと捉えた
そしてすぐ後にその正体がわかった
ドシャッと音を立てながら落とされたそれは
先まで立っていた妹の亡骸だった
「・・ジュ・・リ・・?」
震えていたのは声だけではなく、全身だった
間違えるはずのない妹の無残な姿
服は引き裂かれ、体には巨大な穴が何か所もあつ
走りつくした足は靴を履いておらず、赤くただれた状態で
妹は目をあけたまま血を流し、倒れている
―――ードクンッ――――
心臓が強く発作を起こしたことがわかった
明らかに負の感情に呼応し、闇のウィルスがうごめいている
「ジュリ・・・嘘だ・・なんで・・!」
アレックスは横たわる亡骸を抱きかかえ、背後に忍び寄る魔族へ睨みつけ、武器を構え、確実な殺意を抱く
「!」
そして剣を振り落とす前に目についたのは、狼一族に与えられた刺青が魔族にもあったということ
つまりそれは、ジュリ以外の狼一族が闇に堕ち、魔族化したことを意味する
信じきれない出来事が立て続けに起きる中
アレックスは守るべき存在を失くした失意と絶望に
心を闇に覆われる
「っ・・・殺す・・!
この世の全てを・・僕は憎む!」
犬歯は鋭くとがり、爪は獣のように鋭くとがっていく
「何故・・こんな不条理な世界が許されるのか・・!
たった夢すら持つ頃ができないのなら・・僕は・・世界が滅びるその時まで破壊尽くすっ!!」
獣の咆哮を響かせながら、アレックスは異形の魔族へ姿を変えていった
影で覆われたその姿は、有能な天族でも捉えることが難しく、アレックスが破壊を止めたのは、一人の男と少年だった