第9章 ディオン連邦共和王国
アレックスの胸部に右手を当て、古の呪文を唱えていくクライヴ
その言語は誰にも翻訳できず、聞き取りすら難しい発音だ
脳から足先まで血の循環と同じように魔術印が流れていたが
クライヴが唱えた瞬間、その動きはとまり
無理矢理吸い上げられるように胸部へ集まり始める
クライヴは闇の力で魔術印を胸部へ集め
ゆっくりと手を動かし、喉へ移動させる
手を動かすたびにもがき苦しむアレックスの腕を抑えるインドリーム
アレックスの力は強く、抑えていた腕を振り払い
鋭い爪はクライヴの頬をかする
「・・・堪えろ・・アレックス」
頬から黒い血を流しながらクライヴは静かに術を進めていく
一切表情を変えるとなく冷静さをつらぬく姿は
まさに数多の闇を見続けてきたクライヴだからころできるのだろう
ヒルトはそんな事を考えながらもアレックスが動かないように腕を抑えている
「う゛っ・・ごぼぉっ!」
泡を吹き出しながら黒くしまった液体の塊を吐きだし
あまりの痛みに目からは自然と涙がこみ上げてくるアレックス
キメラの血を抜き取ることに成功したクライヴは
宙に浮く血の塊を闇の結界で囲み、凝縮して己の闇の中に沈めていった
「っ・・あ・・はぁ・・はぁ・・」
瞳から正気を戻していくアレックス
インドリーム全員が安堵の表情をしながらその様子を見守る
「アレックスーー!」
「!」
聞き覚えのある少女の声
間違えるはずのないその声は遠くから聞こえた
声が発せられた方角へ目をむけると、その正体をしっかりと目でとらえた
「ジーナ・・・!」
動乱の中、ジーナがいるはずではないという思いが横切るが
それよりも手や頬、服が汚れで黒ずんではいるが
無傷でいることにアレックスは安堵に包まれる
「無事でよかった」
「あたしは大丈夫よ、インドリームの皆さんと彼が助けてくれたの!」
「彼?」
「アレックス、無事かな?」
「!」
目の下にクマをつけている男が、その表情は和みのあるもので
アレックスには久しく向けられていなかったものだ
「ヘイデン!
君がジーナを守ってくれたのか?
この混乱の中で?!」
「ああ、我だけの力ではないが
王女を守るとインドリームに約束したからな
交わした以上、全力で守るよ」
「――あれほど僕の夢を反対していた君がなぜ・・」