第1章 三角形 case1
‐黒尾side‐
彼女にこんな顔をさせたのは間違いなく自分で、その顔を元に戻せるのはきっと赤葦だけだ。
泣き顔をそれ以上見ないようジャージを被せた。
俺から赤葦の気持ちを告げたら、彼女は驚くだろうか。
泣き止んでくれたらそれで良い、と口を開いた時…。
タイミング良くご本人様の登場だ。
どう見ても俺が泣かせてる状態に怒りが見てとれる。
どうせなら、煽るだけ煽って二人きりにしてやろう。
ふざけた、からかいの口調を混ぜて言い合いをしていると、彼女が口を挟んできた。
“私が悪い”って、俺を庇ったように聞こえた。
テーピングが足りているのは俺も確認していたし、そもそも替えを取りに行って怪我をしたならこんな場所にいる筈がない。
明らかに嘘と分かる言葉を交えて、それでも必死に言い争おうとする俺達を止めようとしていた。
彼女が怪我をしているのが分かると、俺になんか興味を無くした赤葦。
お姫様と従者みたいだな、なんて二人のやり取りを眺めていた。