第1章 三角形 case1
‐黒尾side‐
彼女を気に掛けた理由は合宿初日に遡る。
去年から梟谷の選手として出ていた無気力なセッター。
人や物に簡単に興味を惹かれないだろうソイツが、目線だけでずっと何かを探してた。
その“何か”には余程ご執心なようで、目の届かない場所に在る事が落ち着かない様子だった。
やっとその“何か”が分かったのは丁度良くウチとの試合が終了した時。
耳慣れない呼び方でソイツを呼ぶ女の子。
背丈は平均より多分低い。
見た目も綺麗とか可愛い訳でもなく、スタイルも普通。
それでも赤葦は、その女に夢中なようだった。
二人のあの雰囲気は深い仲の人間が出すような、お互いを知り尽くしてます、といった感じで。
当然恋人なのだろうと、からかいがてら近付いた。
彼女の答えは予想を裏切る“幼馴染み”というやつで、その鈍い言動に同情すらした。
そのからかい方が、彼女にとって不愉快だったようで、徹底的に赤葦を避ける姿に柄にもなく悪い事したな、なんて思っていた矢先。
合宿中は音駒の手伝いをします、とか。
俺等、一応敵になるんですよ、愛しの京ちゃんも怒るよ、それは。
あの手のタイプの男の嫉妬とか怖いだろ。
流石にそんな恨まれ方はしたくもなく、彼女から音駒の世話は無理だと言わせるように仕向けた。