第11章 帰る場所
「どうか顔を上げてください。謝罪の必要はございません。全て私が撒いた種です。お詫びのしようもございません。これ以上皆様にご迷惑をおかけするわけには参りません。父は、忍術学園を我が物にしようと企んでいます。それを阻止するため、私は父の元へ参ります。」
その言葉にざわめきが起こる。
「椿さん!どうして!?」
「行かないでください!」
「あんな仕打ちをされておいて、何されるかわからないじゃないですか!」
皆の声はもちろん、椿に届いている。
行きたくない、皆と一緒にいたい、その想いを押し殺すように唇を噛む。
隆光を信じていないわけではないが、隆影が攻めてこないという確信が持てない今、椿が竹森城に赴き止めるしか手立てがない。
「大川平次渦正様、今までのご厚意感謝申し上げます。皆様も、どうかお体にお気をつけてくださいませ。……失礼致します。」
椿は立ち上がり退出しようとする。
すぐさま一年生が彼女を囲み、行かないでと強く訴える。皆、不安が隠せない。
土井や六年生、誰もが今すぐ彼女の手を取り引き留めたい思いを抱えていた。
だがここの長は学園長。
私情を持ち勝手な行動は許されない。
ある意味では、それができる一年生が羨ましくもさえ思えた。
「…お待ち下さい。少し、この年寄りの話をきいてくださいませんか。実は先日、竹森城の若君、隆光様より書状が届いてございます。」
「…!」
隆光の名に椿の足が止まり、学園長を振り返る。
「それによると、城主隆影様がこの忍術学園を手に入れるために動いていたこと。偶然あなた様がここに出入りしていたのを見つけ、学園の内部情報を得ようとしたが聞き出すことができなかったこと。あなた様が命懸けで守りたかった忍術学園には二度と手を出さないと、命をかけて誓うということが書かれていました。」
「隆光が…」
「つまり、あなたはご自分の体を代償にしてこの忍術学園を、我々全員の命を守ってくださったのです。感謝してもしきれません。学園の恩人のあなたをどうして、危険とわかっているところへ送り出すことができましょう。また食堂で温かい食事を我々に提供してはもらえないでしょうか?」