第11章 帰る場所
「君が生きていてくれて良かった。」
「はい。」
「君が戻ってきてくれて良かった。」
「はい。」
「とっても心配したんだ。君に何かあったら私は………っ」
「土井先生…」
「…はい。」
「良かったです。」
「え?」
「もう、普通にお話してくれないんじゃないかと思ってました。皆も。」
「椿さん…」
「土井先生、ありがとうございます。心配かけてごめんなさい。」
「…っ」
椿を抱く手に力がこもる。
彼女が受けた痛みは計り知れない。それを分かつことも、理解することも難しい。
できることなら、彼女を癒すその力になりたいと願う。
「……あの~、」
「!?」
ばつが悪そうに保健室を覗く伊作。土井はそれに気づくとさっと椿の体を放した。
椿は何事もないかのように伊作に接し、土井は伊作の視線を感じ気まずい思いだった。
「そ、そうだ椿さん、君の体が大丈夫であれば、学園長がこちらに顔を出したいと言っているんだけどどうだい?」
彼女は一度目を伏せると、伊作と土井を見た。
空気が変わった。
椿の持つ雰囲気が、今までのそれと違う。
土井と伊作は、その彼女を一度目の当たりにしたことがある。
神室と再会したときの彼女の雰囲気そのものだ。
「構いません。ですが、私が学園長先生の元へ参ります。」
「いや、動くのはまだ辛くない?無理はしないで。」
「いいえ、私が参ります。土井先生、伊作、手を貸してください。お願いします。」
そうしないと椿が納得しないのだろう。
彼女の表情はそう言っている。
「わかった。だけど辛くなったら、すぐに言って。」
「はい。ありがとうございます。」
土井は椿の体を支え、ゆっくり立ち上がらせる。
そして彼女の歩くペースに合わせて、学園長室までの道を歩く。
伊作も横に付き添い、椿を支えた。
「学園長、椿さんをお連れしました。」
土井が声をかけると、室内から返事が聞こえた。
伊作は椿と目が合うとその手を離す。
障子が開いて椿と土井は、学園長始め先生方が待つ室内へと入っていった。
自分にできることはここまでかと、その場を去ろうと後ろを振り返ったが、そこの光景に驚く。
「伊作先輩!しっー!!」