第9章 其が願いしもの
口にするのも耐え難い。苦しくて奥歯を噛み締める。
消せない傷が残る、そう口にすることによって罪悪感に襲われる。
皆の表情を見ることが出来ない。だけど、皆も苦しんでいる。それはわかる。
「椿ちゃん、何て言ったと思う?傷物になっちゃったから、私は無理矢理結婚させられなくてすむって、笑いながら僕に言ったんだ。こんな傷じゃ貰う側もお断りだよねって。」
これ以上ないくらい握る手に力が入る。
笑っていた椿の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
「椿ちゃんは、女の子なんだ。罪を犯したわけじゃない、ただの…女の子なんだ。体に傷が残るっていうのは、僕たちが考える程軽いものじゃないはずだ。」
涙を押さえられなかった。
彼女のことを思うと、怒り、悲しみ、悔しさ、様々な感情が入り乱れる。
「伊作もういい休め。皆も、今日はもういいだろ?」
留三郎が伊作を気遣う。
仙蔵、小平太、長次が伊作の肩に頭に手を当てて部屋を後にする。
最後に文次郎が、話してくれてありがとうと言い残し去っていった。