第9章 其が願いしもの
「俺はあの時、泣くなんて大袈裟な奴だとしか思ってなかった。だがあいつが城の中で孤独に過ごし、外に出てからも正体を偽りながら生きてきたってことを考えると、多分椿にとって俺たちが初めて心を許せる存在だったんじゃないかって思うんだ。」
留三郎は続ける。皆それを静かに聞いていた。
「出城で椿を見つけた時、あいつは城を燃やせ、学園を守ってって言ったんだ。忍術学園のこと、あいつは守りたかったんだな。」
「大切に思ってくれてたってことだろうな。」
「俺たちは…あいつのこと守ってやれたか?無性に悔しくて、堪らないんだ。」
留三郎は顔を伏せる。
心苦しい。皆それを感じていた。
だから仙蔵はやりきれない苦しみを、神室にぶつけた。
長次が口を開く。
「…きり丸が椿をもう一人にしないでと神室さんに言っていた。私たちは椿の側にいてやることが最善だと思う。」
「…そうだな。」
皆の顔が少し緩んだようだった。
夜も更けた頃、伊作が部屋へ戻った。その様子は憔悴しきっていた。
「伊作、…どうなんだ?様子は…」
「今熱が出ていて、新野先生と僕が交代で看病することになった。」
文次郎の問いに答える。留三郎が、お前は大丈夫かと心配していたが、力なくうんと言うしかできなかった。
「背中の傷だが、あれはなんだ?」
そうか、あれを見たのは僕と留三郎だけか。
仙蔵が聞いてくるってことは、留三郎は話さなかったんだな。
「その答えが……もしかすると椿ちゃんを傷付けることになるかも知れない……それでも聞きたい?」
仙蔵は目をそらし黙る。皆も考えているようだった。
そして、口火を切ったのは文次郎だった。
「受け入れる。…例えそれがどんな答えでも。あいつに何が起きているか、教えてくれ。…頼む。」
文次郎と目が合う。
皆を見回すと、文次郎の言葉に同意するように一人一人が頷いた。
「……わかった。背中の傷、あれは……鞭で打たれたものだと思う。恐らく、彼女は拷問されたんだ……そしてそれは………………一生傷痕が残る。」