第9章 其が願いしもの
「えぇー!!本物のお姫様ー!?」
きり丸、しんべぇの反応に山田土井を始め、上級生はやれやれという顔をする。
「はい、椿様は竹森城城主、竹森隆影様のご息女にあられます。」
神室は語り出す、竹森城の姫君がなぜ身分を隠し、忍術学園へやってきたのかを。
今から四年前、椿の母である葵が突然自害した。
葵は元々別の城に嫁いでいたが、そこへ隆影が攻め入り城主を殺害、葵を自分の側室として無理矢理連れてきた。
葵は己の運命を恨んでおり、娘にも同じ運命を強いることを嘆いていた。
隆影は椿には見向きもしなかった。後に産まれた正室の子、隆光を大変可愛がり椿の居場所はなかった。
自分がいなくなれば、後ろ楯のない椿はますます辛い思いをする。
だから椿を城の外へ逃がし、自由な生き方を送れるよう神室に命じた。
自ら死を選んだのは、その混乱に乗じて神室が椿を連れ出せるように、それと葵自身も隆影から解放されるためにだ。
神室は椿が外で生きていけるように、衣食住の全てに手を回した。
身分を偽らなければ、彼女は生きていけなかったのだ。
もしそれがばれたなら、城に連れ戻される。
葵が命懸けで逃がしたことが無駄になる。
ところが半年前、隆影は齢十七になった椿を政治に使おうと考える。政略結婚である。
国の内外問わず椿を探し始めた。
桧山の追っ手から逃れるため、神室が考えたのが忍術学園だった。
目には目を、歯には歯を、忍には忍を、である。
だが不幸なことに、隆影もまた忍術学園に目をつけていた。
領土と戦力の拡大のためである。
行方の分からない椿を探すより、忍術学園を手に入れるほうが手っ取り早いと考えた。
最早、椿は必要なくなっていた。
椿は、実の父親に二度も捨てられたのだ。
「…私は椿様を隆光様の元へお連れするべく接触しました。それが桧山にばれてしまったのです。私は拘束され椿様はあんな仕打ちを…」
「………」
神室の言葉に愁は顔を伏せる。