第6章 涙
小平太が追っかけてくる気配を感じながら、全力で逃げる。後ろの小平太は、準備運動だな!とか余裕のある声だ。捕まったら…外へ連れていかれる……それはダメ!
「……あ!七松先輩!」
運が良かった。前方に見えたのは滝夜叉丸君始め、体育委員会の面々。
「滝夜叉丸君!助けて!」
「な!?椿さん!?」
「マラソンに連れて行かれそうなの!お願い!助けて!」
「なんですって!」
滝夜叉丸君はそれを聞いて青い顔を見せた。そして後輩達を鼓舞する。頼もしい体育委員会の皆。
「椿さん、ここはこの平滝夜叉丸にお任せを!あなたをマラソンには巻き込ませません!どうかお逃げください!」
「ありがとう!皆もありがとう!」
滝夜叉丸君に小平太を任せ、私はその場を後にした。
背後から聞こえる小平太の離せー!と、必死に止めてくれる皆の声。
どうか皆無事で!そう願いながら身を隠せそうなところを探した。
「長次ー!椿来てないか!?」
図書室には似つかわしくない声が響く。普段なら静かにしろと無言の圧力をかけるところだが、今は長次以外に人影はない。さっさと追い払いたかったため手短にいないと伝えると、小平太は騒々しく去って行った。
小平太が完全にいなくなるのを確認すると、部屋の隅で布を被り丸くなっている人物をポンポンと叩いた。
「……行った?はぁ~ありがとう、長次。」
恐る恐る顔を出した椿は、心底安心したようだった。
何故小平太から逃げているのかを問うと、マラソンに付き合わされそうになったと、少し困ったように答えた。
「誘ってくれることは嬉しいんだよ?だけど、学園の外には出たくなくて…」
そう、不思議に思っていたことがある。椿はこの学園に来てからまだ外出をした気配がない。食堂の手伝いに来ているのだから、必要はないのかもしれないが。ちなみに食材は全て外から運ばれて来るため、必ずしも誰かが調達しに行く必要はない。
それにしても町に買い物に行くとか、甘味を食べに行くとか、あるいは散歩でもするとか、そのような外に出たという話を聞かない。