第6章 涙
「え、私がくの一教室の?」
「ええ、そう。良かったら体験してみない?」
山本シナ先生からの突然の提案だった。
くの一教室でお花の授業があるので、椿も参加しないかということだった。
「でも私、授業料払ってませんし…」
「大丈夫。学園長先生からのご提案だし。くの一の皆も喜ぶわ。」
それならば、と受けてみることにした。授業というのがどんなものか興味もある。
山本先生に連れられてくの一教室に入ると、女の子特有の黄色い声に包まれる。
「はい、静かに。今日は特別に椿さんにも授業に参加してもらいます。」
「よろしくお願いします。」
くのたまの中に混ざって授業を受ける。
緊張感を持っていると、山本先生は気楽に楽しんでと言ってくれた。
用意された様々な草木や花を生けていく。
まだ母上が生きていた頃に習っていたものと大差ない。ただあの頃は習い事が嫌で仕方なかったのに、今はとても楽しく感じる。違うのはやはり、環境そして自分の立場だ。
自由に花を表現していると、山本先生はとても誉めてくださった。
「椿さん、すごーい!」
「素敵ねー!」
「どこかで習っていたの?」
「ええと、小さい時に少し…」
「ねぇ椿さん、私のどうかな?」
賛美に気恥ずかしくなっていると、ユキちゃんが声をかけてきた。
「そうだね、ユキちゃんのは…」
出来る限りのアドバイスをすると、私も私もと皆から声が上がった。山本先生はその様子を喜んでくれたらしく、明日の授業にも誘われてしまった。
午前中はとてもいい気分で過ごせた。なので、放課後あんなことになるとは夢にも思っていなかった。
「おぉ~い!椿~!」
「ん?小平太?」
休憩中の私のもとに走ってきたのは小平太。大きなワンコみたいで可愛いなと思っていたけれど、次の言葉に耳を疑うことになる。
「マラソン行くぞー!裏々々山までだー!」
「………はい?」
「マラソンだよ!一緒に行くぞ!なっ!」
「いやいやいや、行かないよ!そんなに走れないし!」
「大丈夫だ!私が連れていく!」
「外に出たい気分じゃないの!」
「走れば気分も変わるだろ!」
ダメだ!何を言っても聞かなそうだ!
そう判断して小平太から逃げる。逃げ切れる自信はないけど…
「無理なものは無理なのー!」