第3章 歌声
「おはよう、椿さん。」
「おはよう雷蔵君。みんなも、早いんだね。」
やってきた五年生と朝の挨拶を交わす。
一人足りない気がするけど、気のせいかな?
「朝から椿さんに会えると思うと、いてもたってもいられなくてね。それにそのエプロン姿…」
注目を浴び、気恥ずかしい感じがした。
「え、これ?」
「うん、かわいい。」
声のトーンを落とし、ふっと笑う雷蔵の顔に椿の顔が熱くなる。
「あれ、照れてる?」
「…!もう、年上をからかうんじゃありません!」
ぷいっと頬を膨らませそっぽを向く椿に対して、怒っても効果ないんだけどなとその場の一同は思った。
「はは、ごめんごめん。」
椿から受け取った朝食を手にし、離れようとして足を止める。
「ちなみに、雷蔵だったらこんなことしないと思うよ。」
「え?」
遅れてやってくるもう一人の同じ顔。人の良さそうな彼が本物の雷蔵だった。なんだか化かされた気分だ。
「…三郎君ね…」
「見分けがつかない?不破先輩と鉢屋先輩の?」
「でもそれは、俺たちでもわからないっスよ。」
「先輩たち、いつも二人でいるもんね。」
乱太郎、きり丸、しんべぇに相談するも、この解答だった。
「そうなんだ~。私が忍者じゃないからわからないのかと思っちゃった。でもさ、誰だって名前を間違えて呼ばれたら嫌だよね…」
ため息をふーっと吐く。
乱太郎たち三人は、顔を見合わせて笑った。
「椿さん、あまり悩まなくてもいいと思いますよ。」
「そうそう、結局鉢屋先輩だって相手の反応見て楽しんでるみたいだし。」
「そうですよ。先輩は悪戯好きなんです。それより僕、気になってることがあるんだけど。」
「なーに?しんべぇ。」
「椿さん、食堂のおばちゃん見習いってことは、いつかは食堂のおばちゃんになっちゃうの?食堂のおばちゃんが二人になっちゃうの?」
「しんべぇ!せめて食堂のお姉さんでしょ!椿さん、悪気はないんです。」
「しんべぇは素直すぎなんです、すんません。」
乱太郎、きり丸がフォローに回る。
椿はうーんと考えていたが、真剣な面持ちで机をバンっと叩く。
「しんべぇ君!」
「は、はい…!」