第4章 インターハイ
信号が青に変わり前の車が動き出す。
巧もそれに合わせてアクセルを踏んだ。
「荒北くん」
佳奈の口から出た名前を聞き、沙織の反応を見たとき、40年生きてきて初めての気持ちを抱いた。
それは嫉妬と呼ぶべきもの、なのだと思う。
これまで何人かの女性と出会い別れてきたが、別れを悲しいと思ったことはなかった。
彼女と遠く離れるから仕方がない
彼女と考えが合わないから仕方がない
彼女に他に好きな人ができたから仕方がない
それらは全て《残念だが仕方がない》出来事で、悲しむべきことではなかった。
だって、大人なんだから理解できるでしょ?
そうして気がつくと誰にも執着することなく時が流れて40年経っていた。
何度引き返そうと思っただろう。
この無防備なお姫様が気がつく前に、どこかへ行ってしまわないように、このままこの籠に閉じ込めて、どこか遠くへ行ってしまえばいい。
そうしてずーっと自分の元にいてほしいと、自分が言えばこの優しいお姫様はきっと永遠に側にいてくれるのだ。
巧はこの道が続く先を示す標識の文字が目的地へ近づくたびにそう思った。
けれど巧は聞いてしまった。
昨日、更衣室で大切な親友に嘘をついている彼女を。
自分の気持ちに嘘をつく彼女の掠れた声を。
そんなもの聞かされたら、、、ねェ?
大人だったら理解らないといけないでしょ?
巧はゆっくりとブレーキを踏んだ。
そして隣で眠るお姫様に声をかけた。