第4章 インターハイ
それはほんの微かな予感だった。
沙織が高校最後の年を迎えた時、沙織は佳奈とクラスが離れてしまうことをボヤいていた。
「佳奈ちゃんは文系なんだから仕方ないでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど、、、」
「そんなに言うなら沙織も文系にいけばよかったのに、どーせ進学はしないくせに」
「それはそうなんだけど、数学とか物理は割と好きだし」
沙織の実家は医者の家庭で昔から勉強に厳しかったらしい。高校に入ってからは勉強に真面目に取り組んでいないものの、昔買った杵柄と元々の才能で沙織は勉強が得意だった。
進学しない理由は、たぶん実家への反発的なものと卒業したら早く働いて巧と一緒になりたいから?
「変なところ真面目だねぇ。でも、別れは新しい出会いをもたらすって言うよ?」
「新しい出会いなんて、要らないんだけど」
沙織はそう言って、ソファを指でなぞった。凹んでいる時の彼女の癖だ。
そういう分かりやすい所も愛おしい。
しかし学校が実際に始まると、
「なんかさー、隣の席のヤツが私並みに嫌われてんだよね」
「へぇ、そうなんだ」
「うん、後ろ姿はさ黒髪のツヤツヤヘアで綺麗なんだけど、前から見たらコレがブッサイクで、態度もめっちゃ悪いの!」
と沙織は可笑しそうにケラケラ笑ったから、巧は隣の席は女の子で、気の合う仲間ができたのだと思い、喜んだ。
その日から沙織は口癖のように言っていた、早く卒業したい!という言葉を言わなくなり、代わりに隣の席の子の話をするようになった。
「隣の席のヤツと話してみたけど、意外と楽しかった」
「今日は腕相撲で勝ったんだー!」
「なんかアイツ、後輩にそそのかされて鉛筆転がして解答用紙埋めたら、追試になったんだって!バカじゃない?」
楽しそうに学校の、いや《隣の席のヤツ》の話をする彼女に、少しずつ自分の元から離れていく、そんな微かな予感がした。