第8章 秋は夕暮れ②
荒北が行った後、沙織は扉に額を当てて昨日の夕方のことを思い出した。
バイトの制服に着替えて店に出た沙織は、すぐに新開達を見つけた。
「よっ!」
威勢良く自分から声をかけた。
あとの2人のことはよく知らないが、荒北と新開と前に一緒に来ていたのを覚えていた。
その声に新開も笑顔で応えた。
「やぁ」
しかしその顔はすぐに困ったような笑顔になった。
「残念だな、ほんの今まで靖友もいたんだが、、、」
「えっ?」
新開の言葉に沙織は急いで店の外を見た。
だが、あのかったるそうな後ろ姿を見つけることはできなかった。
「そうなのだ!一緒に勉強をすると言ったのにアイツは急に帰るとか言い出しおって!」
まったく!と、東堂は腕組みをしながらぷりぷりと怒っていた。
沙織は東堂の言葉を聞いて
「はは、アイツらしいな」
と笑った。
その内は荒北がクラスの女子に誘われていた勉強会ではなく、新開達とココに来ていたことを知って、ホッとしていた。
しかしその後に漏れたのは溜息だった。
もう少し居てくれたら良かったのにな。
ふとそんな考えが頭をよぎった。
そんな自分にハッとする。
って!!
アイツが誰と放課後過ごそうが、いつ帰ろうがどうだっていいんだった!
すぐに沙織は何かを追い払うような頭を振った。
そんな時、後ろから巧に声をかけられた。
「やぁ、香田さん。ご苦労さま。少し話があるんだけど、バックに来てもらえる?」
その声に何故か心臓が変な音を立てた。
あれ?
巧はいつも客を優先する。
いくら新開達が沙織の友人だとしても、客と話している時にこんな風に割り込んで来ることはない。
そんな巧に沙織は少しだけ違和感を覚えたが、当の巧はいつも通りニコニコと微笑んでいる。
「え、、、?あ、はい。それじゃあな、新開!」
ま、そんなこともあるか、、、。
沙織は何となく感じた違和感を振り払って、笑顔で新開に手を振った。
「うん、バイト頑張って。」
すぐに新開の明るい声が返ってきた。
話って何だろう?
沙織は新開に向けた笑顔のまま巧の後を追った。