第8章 秋は夕暮れ②
大学に行きたい。
そう伝えた日、2人の雰囲気は良かった、、、と今でも沙織はそう思う。
久しぶりに2人きりになった。
そんなこと感じさせないくらい穏やかな時間。
頭を撫でる温かい感触が優しくて、フワフワと心地良くて、沙織は目を閉じてその感触を味わった。
そしてしばらくしてゆっくりと目を開けると優しく目を細めた巧と視線が重なった。
今しかないと思った。
「私、大学に行こうと思う」
どんな顔をされるか怖かった。
今更?
高校を卒業したら一緒になりたいと言っていたじゃないか。
今から勉強したって受かるわけないじゃないか。
巧はそんな人じゃないと分かっていても怖かった。
しかしそう告げた後も巧はやっぱり優しくて。
「そっか。それじゃあ勉強頑張らないとね」
その巧の言葉は沙織の不安を全部全部掻き消して、
“一緒に頑張ろう”
そう言われたような気がしたのに。
巧の後について入った休憩室で、巧はいつもの穏やかな顔でこう言った。
「もう店に来なくていいから」
「えっ、、、?」
何を言ってるの、、、?
困ったような笑顔でそう続けようと口を開いた沙織を遮って巧は言った。
「それから、、、もう、僕たちが会うのもやめようか」
そう告げた目の前の巧の笑顔は今までとは違っていて、これまで見たことがないくらい冷たかった。
「そもそも僕たちは付き合っているわけでもなかったし、沙織、、、いや、香田さんも勉強しないといけないんだから丁度いいでしょ?」
「、、、え?え?」
付き合ってなかった?
香田さん?
何が、、、誰に、丁度いいの?
今、私達は何の話をしているの?