第8章 秋は夕暮れ②
なぁ、何でだ?
沙織から巧との出会いから別れまでの話を聞いた荒北は、沙織の隣に重い腰を下ろした。
何でなんだよ、オッサン、、、。
そして俯き肩を震わせる沙織の頭に手を置き、ただどこまでも真っ白な天井を仰いだ。
沙織が腐っていた時に巧が店に置いてくれたこと。
辛いことも悲しいことも忘れられて、毎日が少し楽しくなったこと。
巧が喧嘩をしたり、学校をサボるような奴は店には置かないと言ったこと。
その言いつけを守っているうちに、佳奈への罪悪感も消えていったこと。
いつのまにか、巧が見せる笑顔にドキドキするようになったこと。
そして、、、気がつくと2人で朝を迎えるようになっていたこと。
その時に見る朝焼けは何よりも綺麗であったこと。
こんな生活がずっと続くと思っていた。
巧は喜んでくれると思っていた。
自分が大学に進むことを伝えたら。
だって巧はいつも自分の幸せを願ってくれていたと思っていたから。
そう沙織がボソボソと話す度に荒北の胸は痛くなって、喉の奥から何かが込み上げてきてどうしようもないくらい苦しくなった。
そして涙が滲む沙織の瞳を見る度に、何度も抱きしめたいと思った。
しかし荒北には沙織の頭に手を置くだけで精一杯だった。
あーもったいねェ。
これって結構チャンスだよな?
、、、けど。
「でも違ったみたいだ。巧にとって私はただの、、、っ」
「そんなことねェ」
しゃくりあげながら呟く沙織の言葉を荒北は静かに遮った。
「、、、俺が、何とかしてやる」
なぁオッサン、、、テメェ、
ちゃんとコイツのこと好きだったんじゃねェの?
、、、そうだよナ?
本当はコイツの幸せ、願ってたんじゃねェのかよ。
なのに、、、。