第8章 秋は夕暮れ②
「で?何で学校来なかったんだヨ?」
荒北は小さなテーブルを挟んで体育座りをする沙織に問い詰めた。
「、、、、」
沙織は荒北が来たことに一瞬驚いていたが、その理由を聞く気力も無いという風に大人しく荒北を部屋に入れた。
そしてそれからずっとテーブルの横で体育座りをしながら、安っぽいカーペットを指でなぞっている。
これは沙織が凹んでいる時の癖だ。
荒北は前に佳奈の事で落ち込んでいた時の沙織の様子を思い出すと、溜息をついて頭を掻いた。
「ハァ、、、。ま、言いたくなけりゃイイんだけど、、、」
言いながら荒北は席を立っておもむろにキッチンへ向かった。
「茶ァ、もらうぞ」
「うん、、、」
「冷蔵庫開けンぞ」
「どーぞ、、、」
沙織は力無く答えた。
その様子をチラリと見てから、荒北は冷蔵庫を開けた。
食器棚からグラスを2つ取り出してお茶を注ぐ。
コン。
できるだけ優しく沙織の前に置いたつもりが、置いたグラスの底が音を立てて、お茶が少しテーブルの上に跳ねた。
沙織はその跳ねたお茶を眺めながら口を開いた。
「もう行かなくて良くなったんだよ」
ゴクリ。
お茶を飲みながら荒北はそう言った沙織を見た。
行かなくて良くなった、というのは学校のことだろう。
「ハァ?何で?お前、受験すンじゃねーの?」
荒北はフンと鼻を鳴らして言った。
「、、、うちの店の店長知ってる?」
少し声を震わせて沙織が聞いた。
「あー、、、うん。見たことある」
、、、ホントは昨日喋ったケド。
荒北は頭を掻いた。
「私、その人が好きだった」
ドクン。
荒北の心臓が小さく跳ねた。
「そーか、、、」
知ってるヨ、、、。
痛いくらいに、、、。
荒北の頭に浮かぶのは巧の隣でどこまでも穏やかな沙織の笑顔で。
荒北は喉が詰まりそうになるのを堪えて、できるだけ普段通り答えた。
「付き合ってるのかなぁなんて勘違いするくらい好きだった、、、。はは、笑っちゃうよな」
そう言って沙織は困ったように笑ったが、荒北は笑うことができなかった。