第6章 秋は夕暮れ①
沙織は走った。
必死で走って、、、
来てしまったのは屋上だった。
ガシャン!
フェンスにぶつかるようにして走ってきた足を止めた。
「ハァ、、ハァ、、、、」
息が苦しい。
肩で息をしてフェンスにもたれかかる。
そこは荒北がよく寝ていた場所だった。
沙織が隣で荒北をからかって笑った場所だった。
下を見るとグラウンドで遊ぶ生徒が見えたが、涙でボヤけてよくは見えなかった。
「かっこ悪、、、」
長い前髪をかきあげて沙織は呟いた。
逃げてきてしまった。
本当は謝りたかったのに。
軽くふざけたように謝って、そしたらきっと荒北は少し怒るけど、たぶん何だかんだ許してくれたのに。
そういう奴なのに。
これじゃ、、、
たぶん見られてしまった。必死で振り払ったけど、間に合わなかった。
思わず涙ぐんだこの目を、
荒北はどう思っただろうか。
「シャレになんないじゃん、、、」
そう独りで呟いた肩に大きな手が優しく置かれた。
「あ、、、」
まさか、、、荒北?
ゴシゴシとブラウスの袖で涙を拭ってゆっくりと振り向くと、そこには新開がいた。
「っと、新開か、、、」
一瞬緊張した体が緩む。
「酷いなぁ、、、ハァ、、、誰だと思ったのかな?」
新開は少しだけ息を乱しながら苦笑した。
もしかして走ってきた?
「えっと、、、」
荒北だと思った、、、
そんなこと言えないな。
、、、ってかヤバイ。
その名前を思い出しただけでまた目の前がボヤけて、、、
溢れそうな涙を拭おうとした瞬間、目の前を赤茶色の髪がかすめた。そして気がつくと大きな身体に抱きしめられていた。
ほのかに荒北とは違う汗の匂いがした。
え、、、?
「えっと、新開?どうした、、、」
押し返そうとしたが逞しい体はビクともしない。
「どうして、俺じゃないの?」
耳元で新開が囁いたが小さすぎてよく聞こえなかった。その声はちょっと苦しそう、、、?
「え、、、?」
「あ、、、っ、ごめん、、、」
突然引き離された体。汗ばんだ胸元に風が通る。
「ちょっとよろけちゃって、、、酸欠かな?」
頭をかいて再び苦笑する新開。
「ダメだなぁー部活してないと弱っちゃって、、、」
言いながらポケットからパワーバーを出して、
「一緒に食べない?元気出るよ」
沙織に差し出したその顔と声はいつも通りの新開だった。