第1章 砂漠の月00~70
月子の言葉に目を見開き、声を漏らす市を真っ直ぐに見つめて月子はもう少し言葉を探す。
「市先輩は、元就先輩が他の誰かを好きになって、その人を特別な一番にしても、笑って見ていられますか? 市先輩が今まで居た場所を、その女性に譲って笑顔で仲睦まじい様子を直視出来ますか?」
「そ……れは……」
「私は、絶対無理です。きっと、泣いてしまって見れないです。胸が苦しくて、息の仕方がわからなくなって……どうして良いかわからなくなると、思います」
今までとは違う、市を最優先しない元就と晴久を月子は想像出来ないが、市を最優先で動く晴久はこれまでにも何度も見た。
自分を気にする前に市に気を配り、別の人が動いているのを確認してから月子を見てくれる。
ただの幼馴染なら、きっとこんなにも大切にしていない。
苦しくなる胸を深く呼吸する事で誤魔化しながら、市に問い掛けた月子は市の教室に辿り着くと扉の前で足を止める。
「月子ちゃん……」
「慌てなくて良いんだと思います。ゆっくり時間を掛けて考えて、市先輩の気持ちをきちんと伝えれば。それが元就先輩の思う答えでなくても、きっと受け入れてくれます。だから、逃げたらダメなんだと思うんです」
「う、ん……そう、ね。市、今のままが楽しくて、嬉しくて、考えるのを拒絶してた、わ。ちゃんと、考えてみる」
「はい。きっと、今日の今日、気持ちを決めなくても答えは待って貰えると思います」
その分たくさん口説かれると思うけど……という言葉は飲み込んで、漸く少し笑顔を見せた市ににこりと笑うと月子はまだ授業があるため自分の教室へと帰っていった。
元就と晴久は、市のパニックに気付いていたので月子に任せ、市が教室に入って少ししてから教室に戻ってきた。
市がチラリと元就を見ると、元就はいつも通りで少しだけホッとして、複雑そうに二人を見る晴久に気付かないまま授業に意識を向けていった。