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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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試験の順位を報告しに行き、月子は市の様子がおかしいことに気付く。先日のお泊り会の夜の会話を思い出し、三人と合流してから自分を撫でていた晴久の手を抜け出ると市に抱きついた。
そのタイミングで掛けられた元就の言葉は月子にも聞こえてしまい、市が頭を真っ白にしたのに気付いて教室に向かうため手を引いた。
晴久と元就が来ないのでちらりと月子が振り返ると、晴久が市を見た後、驚と寂弱と焦燥と、他のたくさんの感情を一気に巡らせた表情で元就を見るのが見えてヅキリと胸が痛む。
元就と何かを話した後、再び市に向けられた晴久の視線ははっきりと哀しみが表れている。

「やっぱり……」

ヅキリ、ヅキリと痛み出した胸に鼻の奥がツーンとし始め、月子は慌てて深呼吸すると漸く意識を現実に戻したらしい市がどうしようを連呼し始める。

「月子ちゃん、どうしよう!!」
「市先輩……」

狼狽えて、手を引くために握っていた月子の手をぎゅうぎゅうと握ってくる市に、思わず苦笑すると手を握り返す。
何をどう言えば良いのか、月子も恋愛は初心者である。少し悩み、少しずつ言葉を選び落とす。

「うーん……とりあえず、きちんとお話を聞いて市先輩がどうしたいか考えてみれば良いと思います。市先輩は、元就先輩とどうなりたいか、じゃないですか?」
「でも、市は……」
「元就先輩が市先輩を諦めて他の女性を特別にしても、市先輩が感じるのは幼馴染が離れる寂しさだけですか?」
「え……?」

市が何かを後ろめたく思っているように感じた月子は、少しでも市の気持ちの整理をするヒントになればと先程感じた胸の痛みを市に置き換えて言葉にする。
月子は市を見て何かを諦めるように哀しそうな表情を見せた晴久に、泣きたい程、胸が苦しくなった。自分を見て欲しい、自分だけに市に向けた愛情を向けて欲しい。そんなわがままな思いを自覚してしまった。
それは、月子が見ている晴久が、きっと市が誰と結婚しても一途に想い続け市の幸せだけを願うのだろうと思わせたから。
そこに月子の入る隙間はないと感じさせたから。そう思えるまでにどれだけのモノを飲み込んだのか、月子には分からないけれど、自分がそう出来るかと言われれば今はまだきっと出来ない。
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