第1章 砂漠の月00~70
中では声を聞きつけた月子が晴久と共に玄関に駆けつけ、元就に尋ねたが知らぬとはぐらかされてしまい晴久は元就を追いかけ、月子は市の所へと駆け寄ってきた。
「市先輩、大丈夫ですか? やっぱりどこか怪我を……?」
「あ、えっ、う、ううん。怪我はしてない、わ。怪我はしてない、の……うん」
「市先輩?」
声を掛けたが上の空の市に不思議そうに首を傾げた月子は、気になりはしたが元就を見てからもう一度市を見て問いかけるのを止めた。
今日はもう風呂に入って寝るだけとなっているため、順番に入るとそれぞれの部屋に別れて就寝する。
布団に入って暫くした頃、月子は寝付けずに寝返りを打つと市も起きていることに気付いた。
「市先輩、起きてますか?」
「うん、なあに?」
「帰ってきた時、元就先輩と何かあったんですか?」
静かな室内では声を張り上げる必要もなく、呼びかけに答えてくれた市へ疑問に思っていた事を囁く。
ビクリとベッドの中に収まっている身体が跳ねる気配があり、次いで息を飲む音が響く。
月子が静かに待っていると、なんで? という小さな声が返ってきた。
「市先輩が、なんとなく元就先輩を見づらそうにしてたのと、晴久先輩の背中に隠れようとしてるように見えたんです。でも、元就先輩は普通っていうか、もっとスッキリした感じ、でしょうか? なんか、そう見えて……」
「うー……」
「市先輩?」
どうしてそんな風に思ったのかを言葉を探しながら説明する月子に、市が段々と唸り声を上げ始めて気に触ることを言ったかと不安になり名前を呼ぶともぞもぞと寝返りを打つ音が聞こえて唸り声が止まる。
名前を呼ばれて月子が市の方を向くと、暗がりでも月明かりで判るほどに紅く頬を染めた市が月子を見ていた。
手招きで呼ばれ、ベッドに近付くと一緒に入ってと言われて月子は市のベッドに潜り込む。
セミダブルなのか、シングルよりも広いそこに二人で寝転んで向かい合うと、市がぼそぼそと問いかけてきた。
「月子ちゃんは、晴久のことどう思ってる?」
「うっ……やっぱりバレバレですか?」
「バレバレよ」
「うー……ん、私は、たぶん、友情以上恋愛未満、なんだと思います」