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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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大泣きした月子はいつも以上に走れず、晴久が抱き上げて走ることになった。
晴久は月子を抱き上げているのにかなりのスピードで走っており、月子は振り落とされないようにしがみつくのに必死で羞恥心は市の家に着いてから訪れた。

「……っ!」

そっと降ろされて地面に足が着くと、やっと状況に心が追いついて真っ赤になり声にならない悲鳴を上げた。
晴久はそれを怖かったからだと勘違いしてあやす様に抱き寄せて背中を擦ってくれる。
月子はなんとか深呼吸をして震えを落ち着けると、そろそろと顔を上げる。

「大丈夫か?」
「っ、だ、大丈夫……」
「無理すんなよ?」

晴久が顔を覗き込んでくるのに驚き、頬を染めながらコクコクと頷く。
心配そうに頭を撫でる晴久に、コクリと頷いて促されるままに中へ入っていく月子を市が後ろから見ていた。

「いいなぁ……」
「市?」
「わっ? え、何、元就?」
「無意識か……」
「何が?」

ポツリと落とされた市の声を拾ったのは隣に居た元就で、訝しげに名前を呼んだが市は夢から覚めたような雰囲気できょとんとした表情を見せた。
無意識での呟きだと悟った元就は、不思議そうに見てくる市に話すか一瞬悩んだが何が良いのか気になり話すことにしてまだ黙って待っている市に口を開く。

「今、晴久と月子を見ながらいいなと呟いておった」
「え……うそ……」
「嘘を言ってなんとなる」
「いや、まぁ、そうだよね、うん」

見たままを話せば僅かに目を見開き、恥ずかしそうに頬を両手で触れながら視線を逸らす市に元就の心が苛立つ。
まさか市は晴久を? そう思ったが、恥じらった市がそのまま続けた言葉に直ぐに違うと理解して元就は市を見る。

「市、あんまり恋とか興味なかったけど月子ちゃんと晴久見てると、なんか良いなぁって」
「ほぅ……? ならば、我とするか?」
「へっ?」
「我はもうずっと前から、市をその様に見ておる。考えてみるといい」
「えっ……えぇっ?!」

先に入るぞ、と言い中に入っていく元就の背中を呆然と見送った市は、遅れてやってきた理解に盛大な叫び声を上げて雹牙に叩かれるまで外で固まっていた。
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