第1章 砂漠の月00~70
「かはっ! ぐっ、ごほっ、ごほっ! はっ……ひ、さ、せ……ぱ…」
「大丈夫かっ?!」
「ふっぇ……こわかっ……」
「もう大丈夫だ」
顔が海面より上に出て肺に空気が入ってくると、咽ながらも薄っすらと開けた目に飛び込んできた晴久の心配そうな顔に安堵して月子が手を伸ばすと抱き寄せてくれる腕に強張った身体から力が抜ける。
少し離れた場所では、遠くからでも見えていたのだろう仲間たちが悪さをした男達を残らず捕まえていた。
「月子、背中の方から首に腕回せ」
「やっ! やだっ! 怖いっ!」
「大丈夫だから落ち着け、泳げねぇだろ。岸に帰ろう」
晴久が腕を緩めると離れるのが怖いらしい月子が慌ててしがみついてくる。晴久は下手なしがみつかれ方をしないように注意しながら月子と額を合わせると目を覗き込む。
「大丈夫だ。今度は絶対守ってやる」
晴久の目をじっと見つめていた月子は、小さくコクリと頷くと後は大人しくされるままに背負われて岸へと戻った。
砂浜に上がると月子は身体に力が入らず、晴久が姫抱っこで抱え上げるのを甘んじて受け入れていた。
別荘へ戻る途中に知らない男達が縄で縛られていたが、それを視界に入れたのは晴久だけで、背を支えていた手で頭を肩に凭れるように促され素直に従っていた月子には見えなかったのでその男達がどうなったのかは知らなかった。
「ごめんな、怖い思いさせちまって」
「そんな! 私こそ迷惑を掛けてしまって……ちゃんと泳げればあんなこと」
ウッドデッキにあるウッドチェアに降ろされた月子はその端に腰掛けた晴久に謝られて慌てて首を振ると、自分が悪いのだとしゅんとした様子で謝った。
そんな月子に晴久は苦笑するといつも通りに優しく頭を撫で、お互い様だな、とあえて月子の謝罪を受け入れる。
それから少し寝ろと促され月子が目を閉じると晴久の立ち上がる気配に気付き、咄嗟に目を開けて手を伸ばしていた。