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砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


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晴久に手を引かれて海に入った月子は、浅瀬で足を止めどちらに乗りたいかと聞かれ浮き輪を見る。
黒羽が渡していたのは大きなシャチとバナナボートで、イルカが好きな月子は控えめだがシャチが良いと希望を伝える。

「ん、じゃあ、ちっと待ってろ」

シャチを渡されながら言われ、頷いて大人しく待っていると近くに居たらしい佐助にバナナボートを渡した晴久がすぐに戻ってくる。

「ほら、乗れよ。引っ張ってやるから」
「え、でも……」
「泳げるのか?」
「うっ……す、少しだけ」

戻ってきた晴久がシャチを持って先導し、太ももの中程まで沈んだ所で浮いたシャチを押さえて月子を促す。
掴まって泳いだりするのかと思っていた月子が戸惑っていると、ズバリと問いただされて言葉に詰まる。
見栄を張りたかったが、残念ながらそれをする場面ではないと悟ると恥ずかしそうな申し訳無さそうな複雑な表情で素直に答える。
晴久はだろうな、と頷いて再度乗るように言ってくるので月子は大人しくシャチに跨った。
暫くはバランスを取るのが難しく、晴久がシャチを持っていない方の手で支えられていたが泳ぐ頃になると上手くバランスが取れるようになり、頭だけ出して器用に引っ張りながら泳ぐ晴久と二人プカプカ浮かぶのを楽しんでいた。

「大分沖に来ちまったかな。もう少ししたら一旦戻るか」
「はぃきゃぁっ?!」

気付けば遊泳可能な境界の近くまで来ていたことに驚きながらも、戻ることに異論のない月子が頷くのと突然シャチがひっくり返されるのとは同時だった。
急激にバランスが崩れた月子は海面に投げ出され、晴久が驚いて動きを止めたのは一瞬で投げ出された月子が浮いてこないことに気付くとすぐにシャチを手放して海中に潜る。
ちらりと振り返った先には厭らしい笑みでシャチを奪っていく男達が見え、直ぐに見つけた月子にも同じ様な顔をした男達が嫌がるのを物ともせず引っ張っていこうと群がっていた。

『月子っ!』

ごぼっと月子の口から大量の空気が溢れ、苦しそうに顔を歪めるのが見えて晴久は急いで泳ぎ寄る。
月子の腕を掴む男達の腕を引き剥がし、急上昇すると海面に顔を出す。
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