第1章 砂漠の月00~70
女友達でも試合に応援などは来たことがなかったと月子が困ったような笑みで告げれば、市が抱き寄せて撫でてくるのを月子は素直に受け取った。
そうして落ち着いた頃、席に着くと丁度婆娑羅学園の試合の番になっていた。午前中は団体戦、午後は個人戦で晴久は両方に出るのだと説明されて月子が目を丸くすると市はクスクスと笑い、元就は鼻で笑って競技場へ視線を向けた。
視線の先には競技場の枠の外に並んで正座する選手たちとその中央に対戦する選手が並んでいる。晴久は大将の位置に座っていた。
試合は順当に進み、現在二対二の引き分けで大将戦で勝敗が決まるという戦況になっていた。
ルールは良く解らないが、空手の試合は月子には手に汗握る緊張の連続だった。肩から上に接触するような技は基本的に禁止の様ではあったが、勢いよく繰り出される技が当たって怪我をしないのだろうかと冷や冷やする。
「大丈夫、よ。月子ちゃん」
「うぅ……市先輩、でも、怖いです」
「そう、ね。でも、ほら……応援してあげて」
両手を組んで強く握りしめながら晴久の試合の様子を見ている月子に市が声を掛ける。たかが二分、されど二分である。
周囲からはそれぞれの選手に応援の言葉が飛んでいる。こういう試合は黙ってみる方が良いんじゃないかと思っていた月子は、しかし市に促されて恐る恐るだが応援の言葉を叫んでみる。
「晴久先輩、頑張って!」
周囲の応援が大きく、掻き消えるかと思った応援は晴久に届いたらしい。チラリと余裕の視線が寄越され口角が上がったように月子には見えた。
隣では市が褒めるように頭を撫でてくれて、元就が面白そうに口角を上げて試合を見ている。
相手の選手もなかなかに強い選手だったようだが、結果は晴久の圧勝だった。一本と有効をより多く取り、圧倒的な差でその試合を制した。
そうして続いた午前中の試合は、最終的には準決勝で晴久以外の選手が負けたためにそこで終わってしまったが月子は市と共に選手たちの控え席に行くと労いの声を掛けた。
「お疲れ様でした。試合、凄かったです」
まだ控えに残っている選手たちが、その月子の言葉に目を瞬かせてから一様に照れた様に笑いいそいそとその場を離れて行く。