• テキストサイズ

砂漠の月

第1章 砂漠の月00~70


20

月子が入部してしばらくして、入部希望が増えたという言葉に首を傾げる。
教えて貰った入部希望者の一人に甘いものが嫌いだと言っていたクラスメイトが居たからだ。

「甘いもの好きになったんでしょうか?」

不思議そうに首を傾げて呟く月子は、その真相を知ることはない。
実は、月子が入部した頃から最近どんどん可愛くなってきていると密かに同級生の間で噂になっていた。
男子生徒には言わずもがな、女子生徒にも今まで目立つことがなかった月子の変化は目を見張るものがあるようで、その理由を推測されていた。
そうした推測の中で立てられた仮説が、市と同じ同好会に入部したからだというものだった。
個々の噂は事実だが、根本的な部分が抜けたそれらがやがて合体して市の同好会に入部すると何もしなくても見る間に可愛くなれる、というご都合主義な噂が出回るようになった。

「うぅん……わかんないけど、真面目にやってくれる子なら良いんだけど入部しただけで何もしないのは困るし」
「お菓子作るのは楽しいです」

ふんわりと柔らく嬉しそうな笑みを浮かべた月子に、市が考えるのを中断してああ可愛い! と抱き着くとわたわたしながらも抱き返す月子は注目されていることに気付かない。否、市たちと行動を共にすることで注目することに慣れてきていた。
グリグリと撫でられ、くすぐったそうに首を竦める姿は小動物を彷彿とさせ近くに居た男子生徒が視線を向ける。

「市、月子、何をしておる」
「元就」
「元就先輩、すみません」

今日は晴久の所属する空手部の試合で、市と元就、それに誘われた月子が応援に来ていた。
市と月子の手には前日からお泊りで一緒に作ったお弁当があり、元就がさり気なくそれらを受け取って持つと会場の中へと入る。
中では既に試合が始まっており、選手たちの気合の入った叫び声に月子はビクリと肩を揺らした。

「びっくりした……」
「ふふ、運動部の試合、見に来るの初めて?」
「はい。色々、今考えると自分でも極力他人と関わらないようにしてたみたいで……」
/ 338ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp