第73章 キルアの冒険
むせ返るような血生臭い鉄の香りが辺りを占め、
両親とも思えぬ残骸を前に、妹の断末魔の如く絹を裂くような悲鳴と慟哭が響き渡った。
親戚もおらず、オラリオへ着の身着のまま持っていけるものを持っていき、
冒険者として兄は働き、妹は家のお手伝いをして2人で生きていくことを決めた。
本来、街のルールではその崖の上への立ち入り禁止が取り決められていた…
ただでさえ狭い上に尖った砂ばかりの地面であり、足場も脆く落石が起きるから、と…
モンスターや野生動物でさえ立ち入らないほど足場が悪く、歩くだけで痛みを発する過酷な場所だとも言える。
冒険者は罰則を受けたが、
何の謝罪も無しに、モンスターがそこへ逃げ込むのが悪い、崖下で山菜採りをするそっちが悪いとまで口々に言われ、
罪が重くなり、更に重罰が科せられたという…
その後…その冒険者が死んだことを、オラリオの酒場で風の噂で彼は聞いた。
オラリオの冒険者は、市民の安全を第一にしてくれる。
少なくとも…ガネーシャ・ファミリアにより治安が守られている。
もう、モンスターや冒険者による影響も受けない…
冒険者の勝手により振り回されたりしない…
悪影響も受けない…
もう、大丈夫だと……
彼には婚約者もおり、時々覗きに来てくれるほど円満な家庭で、
妹もよく懐き、傷も少しずつ癒え、温かな3人家庭を築くまであと僅かだった…
妹は、いつも通りダンジョンへ潜る為に出ようとする彼の見送りに出てくれていた。
兄の連れであるもう一人の先輩、同ファミリアかつ同業者である男性冒険者に
「私ね!これからお友達の所へ遊びに行くんだ!^^♪」
と楽しそうに快活に笑う妹もまた、いつも通り分かれ道まで共に歩き2人で見送るはずの所だった。
そこに…暴走したウィーネが通りがかった…
兄の連れの冒険者が、反射的に彼と彼女を守ろうと攻撃しようとした矢先、
ベルの魔法が容赦なく放たれ、兄は咄嗟に妹を押し倒し覆うように抱き締めてその瓦礫から守った。
Lv.3とは言えLv.4相当の魔法により弾け飛ぶ瓦礫もまた、Lv.4の攻撃と同等の威力を発揮し、容易にLv.2,Lv.3の彼等を傷付けた…
破片十数個もの弾丸を受け、鎧に守られた部位以外が傷付き、血が妹の『頬』へと落ちた…
その刹那――妹の甲高い悲鳴が、高く、高く、狼煙を上げる…
