第66章 穢れ
綿の詰まったそれはまだ温かく、温もりが抜けていなかった。
その様子から、つい先程まで着ていたことが容易く想像できた。
母上「ああ…もう一つ、干し忘れていました。
^^」すっ
そう徐に言うと、母上は自ら自身が着ていた半纏を脱ぎ、今度は私の両足へかけてくれた。
「!!母上
母上「しーっ」内緒ポーズ
悪戯っ子のように、再び目を細め、微笑みながら今度は私の口へ人差し指を付けて諭した。
その折、玄関先からの叫び声が耳を刺した。
父上「干し終えたらとっとと戻れ!」
母上「はいはい(すっ)←立ち上がる
汚してもいいから、横になって寝なさい。
無理な体制をしては、身体を痛めますからね?」なで&微笑←頭を撫でる
「…はいっ!」
最後に再び頭をもう一撫でし、玄関先へ移動し、入っていった。
あの母上の笑みと、星空は…二度と忘れることは無いだろう。
さすさす…
はー
手を暖めているのか、音が聞こえる。
玄関先から見えたその父上の背中から、温かみを感じ、教わった。
武士として、侍として、それ以前に人として…あるべき姿を。理想を…
父上の…温かみも。
母上『いいですか?
武士たるもの、泣くものではありませんよ?』
『はい!』
溢れ出ては零れ落ちて行く涙に、言い訳がましくも私は一人呟いた。
「今は…誰も…いないからっ」
私は…父上と母上のようになりたいです。
自然と、優しくあれる人になりたいです。
そう、思った。
父上『日本男児たるもの言い訳なぞ見苦しい真似はするな!』
『はい!!』
父上『戦場で死にたいのかたわけ!!!』
『済みません!!』
修業はとても厳しく、鬼のようだった。
私では甘えられんだろうと、父上は母上に私の手当てをさせていた。
その全てに、温かさを、常に身近に感じていた。
火の暖かさを分け与えるように。
優しさを分け与えられる人となりたい。
そこに見返りなど求めず、共に喜び、笑える人間となりたい。
母上『与えてやっているでもなく、もらってやっているでもなく、分けられる人になりなさい。
ありがとうと感謝し、分けられる人間になりなさい』
『はい!』
不義を貫き醜く生き永らえるぐらいならば、義に報いての死を選ぶ。
私という軸は…その幼年期の積み重ねの末に、大部分が成り立ったのかもしれない。