【ハイキュー!!】happy ignorance R18
第5章 uncomfortable fact
「あの…蛍君と話したくて…。私、何か蛍君を怒らせるような事した?」
寒々とした心に、更に冷水をぶっかけられるような痛みが走る。
あんな現場見せといて…どの口がそんな事を言うんだ。
それとも、僕なんて鼻から眼中にも入ってなかった?
「別に。何もしてないんじゃない?」
これ以上、ここに居たくない。
目の前の泣きそうな和奏を見たって、先程まで持ち合わせていた彼女に対する温かな気持ちが一切湧いてこない。
泣きそうな様子の和奏に、隠す事もせずため息を付けば、彼女の顔にわかりやすく悲しみが広がる。
ふざけないでよ。
そうやって自分だけが傷付いた顔して…。
そんな自分の思いを言葉にする事もなく、和奏に背を向ける。
早くここを立ち去ろう。
これ以上はお互い傷付くだけだ。
「待って!待ってよ!ちゃんと話がしたいの。」
彼女の必死の声に、動き出した足が地面に縫い止められる。
「僕は話すことないから。」
「ごめんなさい。私が悪いなら、ちゃんと謝るから。私、これからも蛍君とこのままなんて嫌だよ。」
じゃあ…君は僕に何を求めているのさ?
今後は関わりたくないとハッキリ伝えないとわからない…?
ゆっくりと和奏の方を振り返れば、そこに涙を流した彼女が居て、思わず言葉を飲み込む。
「私…蛍君が好き。」
そして、耳に届く和奏の言葉。
僕自身がずっと聞きたいと願ってた言葉…。
1歩、2歩と和奏と距離を詰め、涙で濡れた彼女の頬に触れ、僕の方を向かせる。
「蛍…君?」
少しずつ和奏と顔を近付ければ、眼前の和奏がゆっくりと瞳を閉じた。
唇同士が触れるか、触れないか…。
その時、僕の頭に思い描かれていたのは、和奏と菅原さんの先程の行為で…和奏と及川さんの仲睦まじい様子で…。
「ふざけないでよ…。」
キスをする距離感で呟けば、どんなに小さな声だって、それは和奏の耳にしっかりと届いたようだ。
今は見開かれた彼女の瞳が、驚きの様子でこちらを見ている。
「もう、いい加減にして…。君がどういうつもりか知らないけど、僕はこれ以上君と関わりたいとは思えない。」
和奏の瞳から溢れた涙が、頬に触れた僕の手を濡らした。